J通算ゴール偉業目前で…元日本代表が吐露「このまま取れないのか」 快挙で浮かぶ36歳の苦悩【コラム】
自身の記録達成も、チームはドロー決着で無念の表情
振り返ってみると、若手時代の小林は典型的なワンタッチゴーラーだった。例えば、2011年5月に記録した自身の記念すべきJリーグ初ゴールは、左サイドからのクロスのこぼれ球がファーサイドにいた自分の目の前に転がってきて、それを流し込んだゴールだ。この140点目と同じような位置から決めているのは、何かの偶然だろうか。 最後までボールから目を離さず、動き直しの準備と予測を怠らず、しっかりと詰めているからこそ、ボールを呼び寄せられる。時には説明がつかず、偶然のようにボールが転がってくることもあるに違いない。説明できない時は気持ちで呼び寄せたものだと信じて、ゴールに蹴り込むのだろう。そうやって彼は140回、このクラブのユニフォームを纏ってゴールネットを揺らし続けてきたのだ。 会心の得点後に、足にアクシデントが起きたことで、この日は無念の途中交代となっている。ただ彼がピッチに置いてきた魂は山田新が引き継ぎ、そのファーストプレーで得点。一時期は逆転に成功している。ところが直後に失点を喫してしまい、最終的に2-2のスコアで試合は終わった。 「勝って帰りたかったので、悔しいですね」 ミックスゾーンに現れた小林の表情に笑顔はなかった。逆転しながらも勝ち切れなかったこと、怪我により自分がピッチを離れなくてはいけなかったこと、ストライカーとしての偉業を達成した試合後に噛み締めていたのは悔しさだった。 コーチ時代も含め、長く小林を見続けている鬼木監督は、試合後の会見でこう称えている。 「一番ゴールに貪欲な選手ですし、それがああいうところで表れたと思っています。トレーニングでもそうですし、トレーニングマッチでも得点を重ねていて、選手からの信頼もあります。何回も動き出している中で味方の選手に見てくれと要求していますし、自信もあると思います。そういったものがピッチに表れたと思います」 勝ち点3を掴めず、チームは下位から浮上することはできなかった。それでも、逆境に強いストライカーの心は決して折れない。首位とはまだ勝ち点10差でしかない。何かを諦めるにはまだ早すぎるし、その根底には、ともにクラブの歴史を塗り替えてきた指揮官に対する揺るぎない信頼がある。 「オニさんは今の順位に関係なく優勝を目指しているので、選手たちが信じないでどうすると思った。一番長い自分がオニさんに付いていく背中を見せないといけない。そういう選手が何人ピッチにいるかが、勝つ確率を上げることだと思う。監督だけではなく、選手が強い気持ちを持ってやれれば、チームは上がっていけるし、そういう試合にしたかった」 その言葉からは、すでに次の試合の勝利とゴールを欲しているようにも見えた。36歳の元日本代表ストライカーにとって、積み上げた140ゴールという数字もきっと通過点でしかないのだろう。140回ゴールネットを揺らしても、クラブのために次の1ゴールを目指す貪欲さは、まだまだ衰えない。
いしかわごう / Go Ishikawa