水原一平被告に感じる違和感 「翔平」とはもう呼べない立場で発した言葉、選んだ服、こだわる学歴
米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手(29)の元通訳で、大谷の銀行口座から約1700万ドル(約26億3000万円)を盗んだとする銀行詐欺などで起訴された水原一平被告(39)が4日(日本時間5日)、米カリフォルニア州サンタアナの連邦裁判所に出廷し、有罪を認めた。 久しぶりにあの、例の少しボソボソっとした口調で話す流ちょうな英語を聞いた。 50分に及ぶ公判の終盤、判事が「あなたがしたことを、あなたの言葉で説明してください」と促すと、水原被告は起立した姿勢から上半身を少し前に倒して口元をマイクに近づけ、小さめな声で話し始めた。私が知っている、変わりないあの「通訳」の声だった。 「私は被害者A(大谷翔平選手のこと)のもとで働いていたので、彼の銀行口座にアクセスできましたた。そして、私はギャンブルでとても大きな借金を作りました。自分が唯一考えられたことは、彼の金を使うことでした。銀行にアクセスできたので、私はその借金を支払うために彼の銀行口座から送金をしました」 衝撃だった。法廷内では音声の録音は禁止されているため、手帳にメモをしなければならない。ペンを走らせていた手が一瞬、止まってしまった。大谷を「翔平」と呼んでいた「通訳」はもうそこにはいなかった。被告になった男は、大谷を「Victim A(被害者A)」と呼んだ。 すべて変わってしまったのか。 違和感しか覚えなくなったのは、その後からだった。 “The only way that I could think of was to use his money.” 「自分が唯一考えられたことは、彼の金を使うことでした」 この一言を、泣くことも、震えることもなく、淡々と口にした。 この日、法廷で検察側が訴状に記載された内容を読み上げるだけで10分ほどかかった。つまりこの事件が発覚するまでの数年間、水原被告はそれほど多くの罪を重ねてきたということだ。しかし彼は、その罪を「彼の金を使うことでした」と一言で言い切った。 一体、水原被告と大谷の関係とは、なんだったんだろう。日本ハム時代から知り合い、メジャー挑戦に合わせて2人で渡米。エンゼルス時代から、ほとんどの時間を共に過ごしていた。いつも2人で笑い合い、2人にしか分かり合えない雰囲気というものを作っていた。 それが、彼の金を使うことしか考えられなかったとは…。この一言で、2者の世界は完全に切り離されたと感じた。大谷に相談はできなかったのか?ほかに解決する方法はなかったんだろうか? 「ギャンブル依存症」となり、精神的にも参ってしまっているのかもしれない。だからこんな風に、人が変わってしまったような態度を取っているのかもしれない。そう思ったが、この思いもすぐに覆された。 判事は質疑応答のところどころで、水原被告が精神を病んではいないか、アルコールや薬物を使用してはいないかと質問し、その都度、被告は「病んでいません」「していません」と答えた。この状況や罪状の内容をきちんと細部まで理解しているかという質問には、「理解しています」ときっぱり答えていた。 判事が投げた何十問もの質問にも迷いなく瞬時に回答していた。そんな被告の様子を見て判事は、「あなたはすべてを理解でき、物事をきちんと判断する能力があるようだ」と言った上で、この日の答弁を受理して、水原被告に有罪を宣告した。 法廷を出てから、消えない疑問はまだある。 まずはその服装。これだけ注目される裁判に、水原被告はTシャツで出廷した。前回は襟付きのシャツだったのに、あえてドレスダウンした意図はなんだったのだろう。さらに、それまでずっと、フラットで淡々と答えていた被告が一瞬だけ感情を動かしたように見せた場面があった。それは、判事に就学年数を聞かれ「13年」と答えた後、さらに「高校までですか?」と追加で問われた時だった。「カレッジ(大学)にも少し通いました」。外見や学歴に対しては、この状況になっても、何か思うところがあるような気がした。 「有罪を認めるということは、最大の量刑を受ける可能性があることを理解していますか?」と裁判官に問われた水原被告。「Yes, Sir(はい、理解しています)」と、やはり表情も変えず答えた。最大の量刑には禁錮33年も含まれる。判決が言い渡されるのは10月25日(同26日)。それまでにさらに彼は、変わっていくのだろうか―。 (通信員・村山 みち)
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