伊藤沙莉の朝ドラヒロインは何かが違う!主人公をオテンバ・おっちょこちょいにしない、脱“あるある”『虎に翼』の新しさ|瀧波ユカリさん
アップデート②お見合いで男になじられるシーンで主人公に恥の感情を与えない
女学校の卒業を間近に控えた寅子に、両親は見合いの席を用意する。当時は女学校を出たら結婚するのが一般的、なんなら在学中に結婚してもよい。現に、寅子の同級生にして親友の花江も結婚が決まっている。しかも、寅子の兄と。 結婚そのものへの違和感を隠さない寅子だが、見合い相手が「さまざまな話題をともに語り合える関係」を望んでいると言ったのに勢いを得て、国際情勢や女性の社会進出について、立て板に水のごとく話し出す。 「女性主人公が出すぎたことをして恥をかく、という展開も、ドラマなどの創作物において“あるある”です」と瀧波さん。 「それは共感を得るためだったり、物語として“恥かき”をひとつの事件にして盛り上がりや成長の機会にしたり、はたまた“女性が恥をかく=面白い”くらいの意識で作っていたり、などの理由でつづいてきた演出だと思います。しかしながらそういった演出は、出すぎたことをすると恥をかく、と女性たちに学習させ、萎縮させる負の効果があるものにほかなりません」 公私の場でそんな想いをした女性は数えきれないほどいるだろう。 「第2~3回のお見合いのシーンでは、男性に面罵されようと顔を赤らめたり泣いたりすることなく、自分は悪くないと確信している寅子の姿が描かれていました。従来であれば女性たちの萎縮(いしゅく)につながりがちなシーンが、エンパワメントになりえるシーンになっていたことに感動しました」
アップデート③結婚式で主人公に感動させない。
結婚がいいものだなんて思えない――寅子はなんとなくそう思っているわけではない。法律への関心が芽生え、自分自身でも婚姻制度について調べている。 寅子にも、親友と兄の結婚を祝う気持ちはある。披露宴の場でも、誰もが笑顔になっているのを見て「ここには幸せしかない」とは思う。だが、冷静に「ここに自分の幸せがあるとは到底思えない」とも思う。 「主人公に結婚式で感動させることで、結婚という選択や制度自体を肯定しながら話を進めることもできたはずです。しかしそれをさせなかったことで、このドラマはなんとなく漠然と『結婚もいいよね』的なニュアンスを出すことをしないという、強い意思をもってして作られているのだと感じました。それはその後の展開において、『結婚って罠だよ』と寅子が喝破(かっぱ)していることでもわかります」 結婚とは、ひとつの“契約”である。寅子の少女時代の日本で、その契約は対等の者同士のあいだで交わされるものではまったくなく、結婚した途端に女性は法的に“無能力者”になる。寅子は、すでにそのことを知ってしまっていた。 「感動もしないし、男だけが浮かれて女たちは準備や目配りに追われている様を、寅子が歌いながら冷静に見ているあのシーンは、男女の不均衡を可視化する演出も含めて本当に見事だったと思います」