サウジがカタールと断交、スンニ派同士でなぜ“兄弟げんか”
6月5日、サウジアラビアはカタールとの国交の断絶を発表。それと前後して、サウジ以外にも、イスラム圏7か国がカタールと断交しました。この対立で原油価格も上昇傾向を示しており、その影響は外部にまで及び始めています。 【図】イスラム教「スンニ派」と「シーア派」違いは何? 今回、サウジアラビアなど各国は、なぜカタールと断交したのでしょうか。カタール危機の背景を整理します。(国際政治学者・六辻彰二)
小国だが豊かで開放的なカタール
アラビア半島東部に位置するカタールは、日本の秋田県よりやや狭く、約1万1427平方キロメートル。人口は約226万人の小国です。しかし、その天然ガスの確認埋蔵量は世界の約13パーセントを占め、一人当たりGDPは日本を含むほとんどの先進国を上回る約8万ドル(日本は約4万ドル弱)。カタールは産油国の多い中東でも、とりわけ豊かな国なのです。 国家元首は世襲の首長で、現在のタミム首長は2013年からその座にあります。憲法はありますが、事実上の専制君主制に近い体制です。 その一方で、女性が自動車の運転をできないサウジアラビアをはじめ、厳格なイスラム支配が敷かれている国が多いペルシャ湾岸諸国において、カタールには開放的な面が目立ちます。首都ドーハは中東有数の観光地で、外国企業も数多く集まっています。また、西側メディアのように「報道の自由」を掲げる衛星テレビ局アル・ジャジーラも、カタール政府の支援のもとで活動しています。
サウジの強い影響力が独自路線に向かわせる
もう一方の当事者であるサウジアラビアは、世界屈指の産油国で、メッカとメディナというイスラムの二つの聖都を擁する、スンニ派のリーダー。そのサウジにとって、イスラム世界でリーダーシップを発揮するうえで、重要な足場となってきたのが、豊かな産油国であること、君主制であること、さらにスンニ派の厳格なイスラム支配が敷かれていること、などで共通する、カタールを含むペルシャ湾岸の6か国(アラブ首長国連邦、オマーン、クウェート、バーレーン)でした。 サウジを中心とする湾岸6か国は、1981年に湾岸協力理事会(GCC)を結成。政治的にも結束することが目立ち、近年ではシリアやイラクでのイスラム過激派「イスラム国」(IS)への空爆や、イエメンでのシーア派反政府組織「フーシ派」への空爆などでも、足並みを揃えてきました。カタールには、IS空爆のための前線基地がおかれています。 サウジからみてカタールは、「最も身近な弟分」のうちの一国。しかし、サウジの影響力が強すぎることは、逆にカタールに、経済面での開放を含めて、独自の路線へと向かわせてきたといえます。