堂安律、復調支えたシュトライヒ監督との物語と迎える終焉。「機能するかはわからなかったが、試してみようと思った」
「夢を見るな。現実を見続けろ。やるべきことに真摯に取り組め」
堂安はそんな恩師の決断をどう受け止めたのだろう? 「もちろんさみしさはありました。間違いなく僕のキャリアを大きく左右してくれた監督ですし。彼がいなければ、(FIFA)ワールドカップでの活躍もなかったと自分は思っているので、すごくさびしかったです」 3月30日、自身のゴールを含め3-0で完勝したボルシアMG戦後に、監督への思いをそんな風に言葉にしてくれた。自分が成長するために、次のステージに進むためはここがベストと信じて、2022年7月にフライブルク移籍を決断した堂安。 求めていた環境がフライブルクにはあった。シュトライヒの要求はいつもプロフェッショナルで、とても厳しい。さぼることを一切許さない。攻撃的な選手でも守備への動きが少しでも遅れると、コーチングゾーンから烈火のごとく叱責が飛ぶ。サッカーへの情熱はいつもマックスに燃え上がっている。 堂安はどんな試合でも足を止めることなく走る。何度も何度もダッシュで上下動を繰り返し、チームのために身体を張り続けている。 「きついっすよ」 ミックスゾーンではよくそんなことも口にする。充実した表情を浮かべながら。インテンシティ高くプレーすることはゴールではなく、前提条件でしかないことを堂安はよくわかっている。それなくして、どうやってブンデスリーガやヨーロッパの舞台で勝利をものにすることができるのか、と。 シュトライヒは「夢を見るな。現実をその目でしっかりと見続けろ。やるべきことに真摯に取り組め」と選手にいつも強調している。ある時には「テレビを見てもしょうがない。順位表を見ても何も変わらない。何をすべきか。練習しろ。サッカーをしろ」とド・ストレートなメッセージを送っていたこともある。
堂安に新たなポジションを任せたシュトライヒの意図
厳しいだけではない。シュトライヒの選手に対する愛情は激熱で、とても人情味のある御仁だ。だから選手は監督の声にいつでも耳を傾ける。交代で下がってきた選手を抱き寄せて、言葉をかけることを忘れない。試合に出られない選手にも優しく熱く励まし続ける。 今季、キャプテンのクリスティアン・ギュンターが腕の骨折と感染症で長期離脱していた。「監督の存在がリハビリ期間中の支えになったと話していたが、具体的にどんなことがあったのか?」と報道陣に尋ねられると、ギュンターは次のように答えた。 「病室にずっといた僕をね、監督は何度もお見舞いに来てくれたんだ。そしてサッカーのことだけじゃなくて、いろんな話をしたんだよ。あの時間がすごく気分転換になったし、監督の人間性の素晴らしさの表れだよね。サッカーだけじゃなくて、他のことを大事にしてくれる監督だという証だよ。通常業務で忙しいはずなのに、何度も来てくれるというのは当たり前のことじゃないんだから」 堂安もそうだ。今季シーズンスタートからしばらく不調に陥っていた時期があった。得意なはずのプレーがどうにもうまくいかない。普段だったらミスをしないところで足がついてこない。地元記者が「昨季のようなダイナミックなプレーが見られない。どうしてしまったんだ?」と首をかしげる試合が続く。 レギュラーから外れる試合もあったが、シュトライヒは堂安を復調させようと、5バックの大外の右ウィングバックというポジションでの起用を決意した。本職である攻撃的MFと比べたら守備での負担は多くなるし、自由にセンターへと侵入する頻度も減る。だが、そこにシュトライヒの意図があった。 「リツにはサイドラインでプレーをしてもらおうと思ったんだ。彼にはラインが必要だった。そしてサイドラインからゴールへ向かうというプレーをイメージしてもらった。そうすることでプレーがわかりやすく、やりやすくなると思ったんだ。うまく機能するかはわからなかったが、試してみようと思った。パフォーマンスには満足している」 堂安はこの監督の決断を前向きに受け止めていた。後日、次のように心境を明かしている。 「監督は自分の特徴を生かしたいと。チームの特徴を考えるとサイドにボールが行きがちなんで、そこで少し変化を加えてほしいと言われてます。自分的にも調子が悪いときは真ん中でボールをもらうのが難しい。サイドで受ければシンプルに、目の前の敵を抜けばいいだけなので、監督のアイデアも理解してます。もちろん守備でのタスクは増えますけど、そのおかげでサイドの攻防にも強くなってると思うんで、メリットもあるかなと思います」