CRYAMYが語る、アルビニに直アポで実現した極限の創作活動、インディペンデントの矜持
混乱してる子たちに対して、凪の状態で立ってる僕ができること
―アルバム全体でいうと、途中でも言ってくれたように外側と接続している作品で、一曲目の「THE WORLD」がその宣誓であり、でも最終的には自分の内側を描いた「世界」に回帰して行くというか、そんな印象を受けました。その中で「天国」もパーソナルな想いが背景にあるタイプの曲だと感じたのですが、この曲はどうやって書かれたのでしょうか? カワノ:「天国」はちょっと古い曲で、大事に温めてた曲ではあるんですよね。今の自分が昔の自分に歌ってるイメージで、この曲の2人称は自分だったりするし、もっといえば自分に似てる人でもあるというか。このアルバムでは大きい枠組みに対してのことを歌いながら、そこに跳ね返されて、負けていきましたよっていう歌詞の流れが出来上がったなと思ったときに、「天国」の歌詞はそういう敗北した人たちのことを書こうと思ったんです。僕はもう15歳のときに決定的な敗北感があったというか、親のこともそうだし、超田舎だったので、村八分みたいなことをされたり、そういう敗北感に黄昏ちゃってる自分もいたりして。でもそういう自分に向かって「大丈夫だよ」とか「君を救ってあげるよ」っていうことではなくて、「お前は混乱しながらでも、生きていくしかないぞ」って言ってる歌ではあると思ってるんですよ。それをお客さんというか、この曲にシンパシーを覚えてくれるみんなにも、「お前はろくでもないし、何もできんかったし、惨めなやつだが、それでも混乱したまま生きていくしかない」っていうことを歌ってる曲ではあると思うんです。 ―その感覚は一曲目の「THE WORLD」から通底していますよね。弱い側というか、取り残された側というか、そこに対して勇気づけるとかではなく、自分自身もそちら側であることを宣言した上で、ただ音楽を鳴らしているというか。 カワノ:何かしらのアクションは各曲ごとにあるとは思うんですけど、根底に共通するのが、同じ視点に立つというか、共有とか言うとまたおこがましいですけど、でも同じ状態でいることが大事かなっていうのはすごくあるんですよね。これは別に僕が意識して降りていこうとか、逆に上がって行こうとかするわけでもなく、結局人間は変わらないと僕は思ってるので、僕はもうここから動けないし、変われないから、僕と同じ地平に立ってる人がもしいるとすれば、「僕はここに立ってますよ」っていうことをただやるだけ。結局「自分の生き方は自分で決めなさい」っていう、それでしかないんですよね。 ―カワノくんにとっての原点の曲である「世界」が最後に収録されたこのアルバムは、ある意味ではこれまでの集大成的なアルバムと言ってもいいと思うんですけど、そういうアルバムを作り終えた現在の心境について、最後にもう一度聞かせてもらえますか? カワノ:正直に言うと、もう精魂尽き果てるぐらい走ったので(笑)、今は何かが生まれるとか何かを感じることがびっくりするぐらいないかな。今までだったらリリースがあろうが、ツアーがあろうが、何かしら作ってた気がするんですよ。でもシカゴから帰ってきて、何もやってないんですよね。もっと言えば、このアルバムにある曲を作り終えた段階から新しい曲を一曲も作ってない状態で、自分でも不思議なんですけど、もう全部バーンと出して、注がれない状態の器を持ってぼーっとしてる状態というか、喜怒哀楽の感情どこにも振れない状態なんです。 ―1月からはツアーが始まって、その終着点が6月の日比谷野音公演になると思うんですけど、そこまで走り抜けて初めてその次が見えるのかもしれないですね。 カワノ:マジで野音以降のことは何も考えてないし、ライブももう全部お断りしてて。今はとにかくツアーと野音に集中させてくれっていう。だからその日を迎えてみないとその先のことはわからないです。ただ今が一番いいライブができると思うんですよね。今までやってきたライブはどこかしら僕の喜怒哀楽だったり、心境の浮き沈みが反映されて、それはそれでお客さんも楽しんでくれたライブではあったと思うんですけど、今はもうフラットな状態でステージに立って、ただ歌ってるような気がして。僕が混乱してる方が面白いという人もいるとは思うんですけど、人間がただいるだけ、歌うだけの状態で完結するライブは、今までで一番いいライブになるんじゃないかと思っていて。 ―それはなぜ? カワノ:僕たちのライブに来る子たちは日常生活でいろんなことがあって、悲しいこと苦しいことがあって、混乱してる子たちが多いバンドではあると思うんです。だから今までだったら、そういう混乱してる子たちと僕も一緒になって混乱するっていうやり方で成立していたフロアだったと思うんですけど、そこからまた一歩進んで、混乱してる子たちに対して、凪の状態で立ってる僕ができることを一生懸命やるライブに、今回のツアーとファイナルの野音はなっていくと思うんです。僕は「音楽で人に何かしたい」っていうのが根本にあって音楽をやってる人なので、「音楽を届ける」という意味では、この状態でいることが理想的な形に最も近づくのかなと思うんですよね。 ―それこそこのアルバムは世界のリスナーにも届く可能性があって、ストリーミングも解禁したし、アメリカのリスナーからも何かしら反応はあるでしょうね。 カワノ:そうですね。いろんな人が聴いてくれたらいいなと思う。デイヴ・グロールにも届きましたしね。 ―あ、スタジオに遊びに来たそうですね。 カワノ:今年が『In Utero』の30周年で、僕らのレコーディングが終わったあとにその記念インタビューをエレクトリカル・オーディオでやる予定だったらしいんですけど、スティーヴがデイヴに「日本からいいバンドが来てるから会ってやって」って声をかけてくれて。デイヴにも「アルバムできたら送っていい?」って聞いて、実際送ったら返事もちゃんと返ってきて。だから海を越えるどころか、憧れの人にまで届いたっていうのもあるから、本当に行ってよかったなと思います。それに尽きますね。 CRYAMY 2nd Full Album『世界 / WORLD』(CD/カセットテープ) NINE POINT EIGHT 発売中 CRYAMY WORLD TOUR 2024 『人、々、々、々』 2024年 1/8(月・祝)長野県・松本ALECX w/ SuU / Hue’s 1/13(土)宮城県・仙台MACANA w/ JIGDRESS 1/19(金)埼玉県・HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3 w/ 小林私 1/21(日)神奈川県・F.A.D YOKOHAMA w/ Khaki 1/28(日)大阪府・Yogibo META VALLEY w/ a flood of circle 2/10(土)愛知県・名古屋CLUB UPSET w/ pavilion / 突然少年 2/11(日)京都府・磔磔 w/ Helsinki Lambda Club / Hammer Head Shark 2/24(土)広島県・4.14 w/ 鋭児 2/25(日)岡山県・CRAZYMAMA 2nd Room w/ 鋭児 / 天国注射 3/2(土)福岡県・LIVEHOUSE CB w/ LOSTAGE 3/3(日)熊本県・Django w/ LOSTAGE 3/15(金)兵庫県・神戸太陽と虎 w/ Analogfish / KINGBROTHERS 3/16(土)香川県・高松TOONICE w/ Analogfish 3/20(水・祝)福島県・club SONIC iwaki w/ 時速36km 4/6(土)新潟県・GOLDEN PIGS RED STAGE w/ w.o.d. 4/7(日)石川県・金沢van van V4 w/ w.o.d. 4/14(日)北海道・札幌SPiCE w/ 時速36km 【CRYAMY SPECIAL ONEMAN LIVE】 CRYAMY特別単独公演 『CRYAMYとわたし』2024/6/16(日)東京都・日比谷野外大音楽堂 Open 16:00 / Start 17:00
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