「作家としての生まれは青森県」朝比奈秋さん
「サンショウウオの四十九日」(新潮社)で第171回芥川賞を受賞した作家で医師の朝比奈秋さん(43)=東京在住=が16日、青森市の県立保健大学講堂で「医療と小説」をテーマに講演した。深浦町でへき地医療に携わった経験を基に創作したデビュー作「塩の道」について報じた東奥日報の記事がきっかけとなり、青森市の南内科循環器科医院が企画。朝比奈さんの青森県での講演は初めてで、文学ファンや医療関係者約320人に「生まれも育ちも京都だが、作家としての生まれは青森県だと思っている」と語りかけた。 朝比奈さんは大阪府内の総合病院に勤務していた20歳代後半の約1カ月間、深浦町立関診療所(現在は閉院)でへき地医療に携わった。この経験を基にした「塩の道」で第7回林芙美子文学賞に輝き、2021年作家デビュー。今年9月の東奥日報のインタビューでは同町での経験を「強烈な1カ月」と振り返り、講演会の依頼があった場合には「ぜひ」と意欲を見せていた。 朝比奈さんは久しぶりに訪れた青森県を「懐かしい」と表現。「塩の道」には深浦町で見た風景が色濃く反映されているといい、「自分が書いた小説の文章は忘れるが、見た映像は拭い去れないもの」と述べた。 人生の軸足を医師から作家に移した理由については「小説を思いついたからと言うしかない。自分でも何でこんなことになったのか疑問に思うが、生まれつき人間とは何か、命とは何かを考えてばかりいるタイプだった」と説明。 医師として患者と向き合ううちに「治らない人のことが忘れられず、治らない人はみじめなのかと思うようになった」といい、「その思いがたまり、どうしようもなく出てきた。書くことによっておそらく自分は救われている」と話した。 講演会後には書籍の購入者を対象にしたサイン会も開かれ、朝比奈さんとファンたちが笑顔で交流する場面もあった。