<スマートスタイル>センバツ平田 第1部 春切符への軌跡/上 つまずきからの始動 新チーム変えた「1点の重み」 /島根
「夏の大会でベスト4に残ったチームの主力には、既に下級生が入っている。実力を付けないと勝てないよ」。2019年の夏の甲子園を懸けた島根大会2回戦で敗れてから2日後の7月22日。2年生と1年生による新チーム始動日のミーティングで植田悟監督は語りかけた。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 平田は新チームになるとまず、選手たちだけで目標を決める。保科陽太(ひなた)新主将(2年)を中心に、長期的には「夏の甲子園で勝って校歌を歌う」、短期的には「秋季県大会で優勝」を掲げた。 しかし新チームはいきなりつまずく。初の練習試合の立正大淞南戦から5試合でわずか1勝。夏の和歌山県大会で2回戦敗退の和歌山北にも2―3で敗れた。米子東(鳥取)に3―5、出雲には0―2で接戦を落とした。秋季県大会を1カ月後に控えた8月中旬、植田監督は「公式戦で勝てるわけない。1点の重みを考えながら試合をしないと」とゲキを飛ばした。 その後の松江工戦。中盤までに大きくリードするも、選手たちは追加点を目指してボール球の見極めを徹底。無死一塁の場面ではあえて劣勢を想定し、送りバントではなくヒットを狙う作戦にもトライ。12―2のスコア以上に「漫然と野球をするのではなく、接戦を想定したプレーができていた」と植田監督も意識面の成長に納得する試合だった。 そのころ調子を上げていたのがエースの古川雅也投手(2年)。夏の島根大会で2試合に先発したが、2回戦では制球が定まらず途中降板。疲れがたまると腕の力だけに頼りがちだった。 それを克服しようと、プロ野球オリックスで19年のパ・リーグ最優秀防御率を獲得した山本由伸投手も実践する「ジャベリックスロー」を開始。やり状の投てき物を30メートル先に投げ、全身の力を使う感覚を体に染みこませる。「肩の力を抜いて、全力で投げすぎないように意識したことで球威が増した」といい、8月24日の出雲西戦では5回を無失点に抑えて手応えをつかんだ。 チームは8月17日以降の練習試合は11試合でわずか2敗。植田監督は「18年度の秋季県大会で準優勝したチームよりも総合力は上かもしれない」との自信を胸に、飛躍を期して秋を迎えた。【鈴木周】 ◇ 3月19日に開幕する第92回選抜高校野球大会に21世紀枠で出場する平田。「守備からリズムをつかみ、少ないチャンスを得点につなげる」スタイルで秋季中国大会で8強入り。相手打者の特徴に応じて大胆な守備陣形を敷くなど、緻密な作戦を駆使して勝ち上がった秋の戦いを振り返る。