「ディスコードを作ったのは『FF11』を友だちとボイスチャットしたかったから。」ディスコード創業者インタビュー。ちなみに、現在プレイ中の『FF14』とのコラボは「Look Forward to it(お楽しみに)」。
2024年9月26日~9月29日に千葉・幕張メッセで開催された“東京ゲームショウ2024”(TGS2024)。会場では、世界中のユーザーが活用する“Discord”のブースが展開。初日となる9月26日にはステージイベントも実施された。 【記事の画像(5枚)を見る】 本記事では、ステージイベントにも登壇した、Discordの共同創業者のひとりでもあり、CTO(最高技術責任者)でもあるスタニスラフ・ヴィシュネフスキー氏(文中ではスタン)へのインタビューをお届け。Discordの今後のビジョンから、Discord上で活用できるゲーム&アプリの開発ができる新機能のこと、さらにはスタン氏が好んでプレイするオンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)についてなど、さまざまな話を聞くことができた。 スタニスラフ・ヴィシュネフスキー氏: Discordの共同創業者のひとりでCTO。CEOのジェイソン・シトロンとともにDiscordを創設・設計し、現在も技術と製品の革新をリード。『FF11』、『FF14』などのMMORPGをこよなく愛する。 Discordのプロトタイプは学生時代に構築 ――世界中の人々がコミュニケーションツールとしてDiscordを利用していると思いますが、これまでどのようなビジョンを持って運営されてきたのでしょうか?: スタン: 友だちといっしょに遊ぶマルチプレイ系のゲームが流行ると思って開発をしていたのですが、当初はここまでDiscordが大きくなるとは思っていませんでした。ステージイベントでも発表させていただきましたが、月間アクティブユーザー数が2億人、Discord上で合計15億時間ぶんのゲームがプレイされているなど、想像を超えるほどの成長になりました。ただ、我々としては数字以上に、ユーザーの皆さんにどのようにDiscordを使っていただくかが大事だと思っています。 ――そもそもDiscordはどのようにして開発されたのでしょうか? スタン: 私が学生時代のころは『FF11』にのめり込んでいて、それを遊びながら活用できるソフトウェアとしてDiscordのプロトタイプのようなものを作っていました。そこからカリフォルニアに移住してGREEという会社に入社し、共同創業者のジェイソン・シトロンに出会ったんです。そこで僕たちが作ったコミュニケーションツールをさらにたくさんの人に提供できたらいいなと思い、本格的にDiscordを開発していきました。 ――学生のころにすでにDiscordの卵のようなものを作られていたんですね。当時でいえばSkypeやMumbleなどさまざまなボイスチャットツールがあったと思いますが、Discordはどの部分を強みとして出していこうと思っていたのでしょうか? スタン: 当時はSkypeをはじめとしたボイスチャットアプリはもちろん、掲示板、電話番号などもありました。ただ、それをシンプルに活用できる仕組みはなかったんです。我々は、Discordはたんなるツールではなく“仲間といっしょにいられるリビング”のようなものを作るといったビジョンがありました。そのリビングの中で友だちとゲームを遊んだり、興奮する瞬間を共有したりできる場所を作りたい。そういう思いがあったからこそ、Discordは特別なものになったのかなと思います。 ――私自身、初めてDiscordに触れたときに「無料でこんなことまでできるのか!」と感動しました。ボイスチャットはもちろん、テキストチャットの機能も充実していて、すごく便利だなと。いまもオンラインゲームを遊ぶときは重宝させていただいております。 スタン: 便利なツールとしてユーザーの方々に利用してもらいたい、というのが開発当初からの目的だったので、そういった形で使っていただいて本当にうれしく思います。 ――Discordはほとんどの機能を無料で利用できるというのが大きなポイントだと思いますが、どのようにして収益を生み出しているのでしょうか?: スタン: Discordでは有料課金の要素として“Nitro”を販売しています。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、Nitroはふたつのパッケージで販売していて、購入することでさらに充実した機能が使えるというものになっています。 最初はそこまで大きな売り上げにはなっていなかったのですが、それが徐々に大きくなっています。我々としては、無料ユーザーと課金してくれているユーザーそれぞれの体験価値とその納得度の均衡化をちょうどいい塩梅で保つのが、日々のチャレンジでもあり、目指すところでもありますね。 ――Nitroに課金をしていなくてもDiscordの大部分の機能が使えるのでそのバランスを調整するのはすごく難しいと思うのですが、いかがでしょうか? スタン: すごくいい質問ですね。まず前提として、課金をしなくても楽しんでいただけるようにということをつねに考えています。どのようにすれば気持ちよく、そして楽しくDiscordを利用できるのかを考慮して調整しているんです。現時点でもいいバランスは保っているのではないかなと思っています。 Discordの機能のひとつとして、ゲームプレイ画面を配信することができます。通常であれば720pまでですが、さらに高画質の1080pで配信をするにはNitroを購入する必要があります。その機能に納得すれば課金していただく。そういったスタイルはこれからも変えるつもりはありません。 ――Nitro以外にも課金要素はありますよね。 スタン: はい、複数課金するポイントがあります。たとえば、サーバーのブースト機能では、ブーストすることでサーバーにいる人たちにもメリットがあります。それ以外にはNitroを友だちにギフトしてあげたりできますし、ストアも用意されていたりします。最近では『ストリートファイター6』のアバターも販売していますね。 TGS2024でのDiscordブース。 ――いろいろと課金形態がある中で、いちばん注力していきたいところはどこなのでしょうか?: スタン: いちばん注目したいポイントはやはりNitroです。ほかの部分でしたらアバターかなと。 ――最近だとさまざまなゲームの"クエスト"機能(※)が実装されています。今後、こういったゲームのクエストを追加していきたいというようなものはありますか? ※2024年3月に実装された、Discord上で配信される、特定のゲームのクエストが表示される広告フォーマット。お題を達成することでさまざまな報酬が受け取れる。これまで『FF16』や『原神』などさまざまなゲームのクエストが追加された。 『FF16』のクエスト報酬。 スタン: クエスト機能はここ1年で始まった機能で、その間、さまざまなタイトルとコラボして20クエストぐらいを実装しました。最近ですと『FF16』のクエストが実装されて、トルガルのかわいい報酬も用意できてうれしく思っています。これからも皆さんに喜んでもらえるクエストは順次追加していきたいなと思っています。 ――DiscordはプレイステーションやXbox、Amazon Musicなど、さまざまなサービスと連携できますが、今後も連携できるサービスは増えていく予定はあるのでしょうか? スタン: 先ほどお話した“リビング”の環境をどれだけ快適にできるか、ということをつねに考えています。今後もユーザーが楽しく、気楽に過ごせる空間を作れたらいいなと思っていますが、現段階ではお話できることはありません……(笑)。 サービス連携の話とは少しずれるかもしれませんが、27日にアプリ開発ツールを公開しました。誰でも自分の商品を作って共有することができるようになります。個人でも大手企業でも、誰でもアプリケーションを作って、さらには収益化することもできるようになります。開発者の方々にはぜひいろいろなアプリケーションを開発していただきたいです。 ――作ったアプリを販売できるということは、Discord上にストアができるということですか? スタン: ストアはありませんが、開発者の方々が作られたアプリをダウンロード、使えるようになるところがあって、そこから先に課金する要素も……というイメージですね。現時点では、Discordアプリ内で完結するマネタイズ機能はアメリカとイギリス、EUでのみ対応しています。 ――今後も対応する地域は増えていくのでしょうか? スタン: もちろん、Disocord自体はグローバルなアプリケーションなので、日本での対応もしっかり考えていきます。 ――さまざまなアクティビティやゲームが開発できて、それを共有できるようになるという仕組みですよね。ローンチ時にはどういったものが用意されているかを教えてください。 スタン: リリースにあわせて新しいものが追加されるというより、Discord上でアプリを構築して共有、配信、収益化できるというものですね。つい最近まではどのようなアプリがあるかが探しづらかったので、そこも改善されていて、より探しやすくなっています。もちろん、皆さんが作ったアプリを探しやすいようにフォローしていくつもりです。 ――企業だけでなく個人開発者もアプリを作れるということですよね? スタン: インディーズでも企業でも個人でも、誰でも作れます。そして作ったものは、必ずしもストアに出す必要はなく、友だちどうしでしか使わないということも可能です。Botと同じ感じですね。 ▼Discord開発者ツール関連記事はこちら ――スタンさんは『FF11』だけでなく、『FF14』も大好きだという話を伺いましたが、どれぐらいプレイされているんですか? スタン: 『黄金のレガシー』のリリースに合わせて1週間仕事を休みました……(笑)。『旧FF14』からプレイしていて、背中にはその証であるレガシーマークもあります。 ――おお、かなりやり込まれているんですね! スタン: ほとんどのジョブはレベル100まで上がっています。メインジョブは機工士でしたが、いまはピクトマンサーをプレイしています。 ――最近『FF16』のクエストが実装されましたし、そこまで『FF14』がお好きなら、つぎはDiscordと『FF14』のコラボを期待してしまうのですが、いかがでしょう? スタン: もしかしたらコラボするかもしれませんが、いまは何とも言えない状況ですね。今後の期待ということで。“Look Forward to it(お楽しみに)”。 ――海外のイベントで吉田さんがよく口にされるフレーズですね(笑)。期待しておきます! ほかにいま注目されているゲームはありますか?: スタン: 基本的にMMORPGを好んでプレイしています。たとえば『FF11』は10年ぐらい遊んでいて、『FF14』、『World of Warcraft』とかも遊んでいます。 そのほかでつい最近遊んだゲームは『Satisfactory』ですね。ソニーのプレイステーションエクスクルーシブのゲームもほとんどプレイしていて、いま期待しているのは『ゴースト・オブ・ヨウテイ』です。 ――ご自身はふだんのゲームライフの中でDiscordをどのように活用されていますか? スタン: 私は開発者でもありますが、Discordのいちユーザーでもあります。ですので、みなさんの想像通りの使いかただと思います。仕事が終わったらDiscordを起動して、友だちが配信をしていたらその中に入っていっしょにゲームをすることもあります。複数のサーバーに参加していて、その中の人たちとDiscordを活用しながら楽しくいっしょにゲームを遊んでいる感じですね。 ――現状、Discordが抱えている課題などはありますか? スタン: 基本的にはすべての課題をチャンスだと考えています。具体的なことはお話できませんが、つねにDiscordを改善して、使いやすいものにしていくということにフォーカスしています。 ――今後の短期的なビジョンと長期的なビジョンを教えてください。 スタン: いま、Discordはいい立ち位置にいるかなと。ゲーマーに特化しているアプリで、対戦プレイや協力プレイを遊ぶときに役立つものだと思っています。ゲーム業界もそういったマルチプレイが主体の方向に進んでいるので、我々はプレイヤーの皆さんがDiscordをさらに使いやすく、みんなが便利だと思えるものにするためにサポートを続けていきます。それぞれのユーザーが理想だと思うリビングに近い空間を構築できる環境を作っていく、というのも我々のビジョンのひとつです。 長期的なビジョンに関しては、現在はPCはもちろん、プレイステーションやXboxなど、複数のプラットフォームがありますし、おそらく今後も増えていくと予想します。そのプラットフォームでも我々のDiscordが使えるようにし、使いやすいものにしていきたいと思っています。 Discord上で活用できるゲームやアプリの開発は、お金もかかりますし、簡単に作れるものではありません。それに関しても、サポートできるようにしたいですね。たとえば、ゲームをリリースしても、みんなに知ってもらえないと広がっていかない。ゲームの開発の段階、ベータ版を配信するとき、そして正式にリリースをするタイミングなど、すべての段階でコミュニティとつないで、さらにいいものが生み出せる環境を作っていきたいなと思っています。 ――最後に、ふだんDiscordを愛用しているユーザーにメッセージをお願いします。 スタン: Discordを使っているという声をいただくと、非常に光栄です。そういった方々に感謝の意を伝えたいです。これからもDiscordを活用していっていただきたいですね。 ゲームを開発している方々の中には、Discordを活用して情報を発信するといった使いかたをしてくださっていることもあります。とくに海外だとそれが多いので、日本でも同じように活用していただき、Discordでのコミュニティを通じてよりよいゲームが生まれていけばいいなと思っています。