FC東京・久保建英がキラーパスに秘めた3つの非凡センス
前方を走る味方は左から永井、FWディエゴ・オリヴェイラ、キャプテンのMF東慶悟。そのなかで永井を選択した久保は同時に、修正力も発揮していた。これが2つ目の非凡なセンスだ。 実は前半33分にも同じくカウンターから久保が中央を攻めあがり、左の永井ではなく右を走るオリヴェイラへのパスを選択していた。しかし、正確さを欠いたパスは通らなかった。永井の速さを計算に入れていなかった、と久保は反省している。 「ちょっと謙佑さんの動きが……。もともと足が速いので、ちょっと自分が追いつけなくて。それでパスを出せば浮き球になって、長くなるかなと思って」 無理をして永井へパスを出せば、マークする相手の頭を越す浮き球にせざるをえない。その場合、永井をも越えてしまうかもしれない。そんな計算を瞬時に働かせた久保は、標的を急きょオリヴェイラへ変更。焦った分だけわずかにコースがずれ、決定機を逸した。 そして、失地を回復するチャンスが前半終了間際に訪れた。永井に遅れることなくボールを前へ運んでいった久保は、芝生が短く駆られているピッチ状態をも計算に入れながら、左足を軽く振り抜いた。これが3つめの非凡なセンスだ。 「芝生が滑っていたので、慎重にパスを出しました。ちょっとボールが緩くなってしまったけど、結果としてゴールが決まってよかったです」 強いパスならば、ピッチとの相乗効果で球足が伸びてしまいかねない。ミスは繰り返さない、という思いが込められた短めのパスを、永井は減速しながら伸ばした右足で引っかけ、すかさず自分の前へ運んで左足を振り抜いて値千金の一撃を決めた。 久保のプレースタイルを理解しながら、永井はこんな展開を描いていた。 「タケ(久保)からパスが来なくても、自分が相手を引っ張ることで、タケ自身がシュートを打てるかなと。もちろん、自分がパスを受けることも含めて、両方できる準備はしていました」 松本山雅のMF高橋諒によれば、FC東京の永井とオリヴェイラは「2トップのなかでは、J1で最も強烈な顔合わせになる」と警戒していたという。30歳ながら群を抜くスピードを誇る永井。一方のオリヴェイラは周囲を使う術を含めて、オールマイティーの能力を搭載している。