裁判員制度15年で初の「逆転死刑」か、3人中毒死の「点滴殺人事件」高裁判決が注目されるワケ
● 殺人事件で一般的に 極刑が言い渡されるケースは 控訴審初公判が開かれたのは23年12月15日。検察側は一審を量刑不当として、求刑通り死刑判決を求め、弁護側は「一審は死刑に躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ないと判断しており、(破棄すれば)裁判員制度を否定することになる」と訴え、一審判決の維持を求めた。 第2回公判は今年3月12日に開かれ、被告人質問が行われる予定だったが弁護側の申し出を受けて取りやめとなり、結審していた。控訴審判決はもちろん、プロ判事による量刑判断となる。 一般的に殺人事件では、被害者が3人以上で被告の責任能力に問題がなければ、極刑が言い渡されるのが普通だ。 これは1983年に最高裁が判決で示した死刑適用基準(通称・永山基準)をもとに、刑事裁判の判断に反映されてきた。永山基準は(1)犯罪の性質、(2)動機、(3)犯行態様(執拗(しつよう)性、残虐性、計画性)、(4)結果の重大性、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)年齢、(8)前科、(9)情状-を総合的に考慮して判断するとしている。 特に(4)は「ことに殺害された被害者の数」と強調しており、一般的に被害者1人なら無期懲役以下、3人なら死刑、2人はボーダーラインで、ほかの8項目が量刑に影響を与えることになる。 では、久保木被告の場合はどうか。公判で認定または指摘された点から考察してみたい。 (1)生命軽視の度合いが強い、(2)身勝手極まりない、(3)看護師としての知見と立場を利用し、計画性も認められ悪質、(4)3人の殺害を認定、(5)遺族が(死刑を求めて)検察に控訴を要請、(6)反社会的、(7)犯行当時は29歳、(8)前科前歴はなし、(9)更生の可能性がある-となる。
● 裁判員裁判による一審判決を覆した 「前例踏襲」「量刑の相場感」に批判も では、明日の控訴審判決の行方はどうなるのだろうか。 一審判決では家令和典裁判長が「苦しい評議でした」「慎重に、本当に慎重に検討しました」と言及し、異例の死刑回避につながった経緯を明らかにした。しかしながら「3人の生命が失われたという結果が重要である」とも指摘しており、一審判決が維持されるかどうかは不透明だ。なぜなら、プロ判事は過去の判例を重視して判断するからだ。 一方で、弁護側は「(一審判決を破棄すれば)裁判員制度の否定となる」と訴えており、判事は悩ましい決断を迫られることになる。 というのは冒頭に紹介した通り、一審の裁判員裁判で死刑が言い渡されたのに控訴審で破棄され、無期懲役が確定した事件が下記の8例ある。 (1)「松戸女子大生殺人放火事件」(09年10月に発生) (2)「南青山強盗殺人事件」(09年11月) (3)「長野一家3人強盗殺人事件」(10年3月) (4)「大阪ミナミ通り魔殺人事件」(12年6月) (5)「神戸小1女児殺人事件」(14年9月) (6)「洲本5人殺人事件」(15年3月) (7)「熊谷6人殺人事件」(15年9月) (8)「福島2人ひき逃げ殺人事件」(20年5月) いずれも凶悪事件の前科があったり、3人以上を殺害したなどの理由で一審は死刑を言い渡し、高裁が破棄していた。裁判員らはいずれも記者会見で、死刑判決を出すに当たっての苦悩を口にしていた。だが、高裁が「前例踏襲」「量刑の相場感」などから一審判決を破棄したことで、裁判員制度は意味がないのではないか、などの批判もささやかれていた。 高裁が今回も「前例踏襲」「量刑の相場感」を重視するなら、極刑が言い渡される可能性が高い。