望海風斗、「ムーラン・ルージュ!」の歌姫を再び 「リアルとファンタジーのバランスを」【インタビュー前編】
背中に色気と哀愁がにじむ究極の男役から、華やかなミュージカル女優へと鮮やかな転身を遂げた元宝塚歌劇団雪組トップスターの望海風斗。6~9月に東京・帝国劇場と大阪・梅田芸術劇場で上演される「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」で、ヒロインのナイトクラブの歌姫サティーン役に再び挑む。昨年の日本初演時、作品や役にどのように取り組み、今回はどのように向き合うのか? 宝塚退団から3年を経た今の思いと併せて聞いた。 【写真】赤い服に身を包んだ望海風斗 米ブロードウェーで2019年に開幕し、今もロングラン中の「ムーラン・ルージュ!」。昨年の帝劇公演ではロビーも客席も官能的な赤いライトに包まれ、本場の舞台そのままに絢爛(けんらん)豪華なステージが繰り広げられた。「衣装もセットもすごくて、何か別世界、異空間でミュージカルをしているという感覚と興奮があり、いつもの自分とは違っていたと思います」 同作は01年に公開されたバズ・ラーマン監督の同名映画を基に、サティーンと作曲家志望の青年クリスチャンの悲恋を既存のポップスなどでつづる。望海は昨年の稽古が始まる前にブロードウェーの舞台を観劇し、楽曲になじみのある米国の観客の盛り上がりを見てきた。「特に1幕最後の『エレファント・ラブ・メドレー』は、愛を肯定するラブソングと、愛を否定するラブソングが行ったり来たりして、曲が変わるたびにお客さんが『ワー、ワー』って沸く。これがこのミュージカルの面白さなのだと思いました」 これに対して、帝劇の客席の反応は全然違った。「日本だと曲自体にそこまでなじみがなかったりするので、クリスチャンとサティーンのやりとりの方を見てくれているのだなと思いました」と望海。 宝塚時代も含め、海外ミュージカルの経験はあったが、元の舞台の通りにやるレプリカ上演は初めてだった。「海外のスタッフに『ムーラン・ルージュ!』はこういう作品だから、と言われても、『何でこういう動きをするのか』と聞いたりして、困らせることもありました」と笑う。だが、稽古場で気持ちの流れと動きが合わないように感じたところも、実際に舞台に立ってみると、「照明が当たるから顔を前に向けないと効果的じゃないのだな」などと納得することも多かったという。 昨年の経験を経て作品への理解も深まった。「この作品はリアルだけどファンタジー、ファンタジーだけどリアル。そのバランスが、作品の中に入ってしまうと分からなくなって、どうしてもリアルを求めてしまう。セットや照明、音楽、衣装、すべてが計算されて作られているので、そこを分かった上で演じたい」と意気込む。 サティーンは華やかでありながら、悲しみも背負った役どころ。「今まで出会ったことがない人物でした。すごく芯があり、強くてしなやかな女性。ムーラン・ルージュの花形スターでいなければいけない人という意味では、組のトップとして組や作品を守っていく宝塚での経験を役にインプットできると思いました」 今年の公演は昨年と同じ出演者で上演され、サティーン役も引き続き歌手の平原綾香とのダブルキャストだ。かつて同じバレエ教室に通っていた二人は昨年、それぞれに全く違うサティーンを造形した。「あーや(平原)は包容力や母性があり、すごく柔らかいけれど芯もあった。ソロアーティストとして闘い続けている芯の強さがあるんだなと思いました。客観的に役を見られたことで、自分はどうやってサティーンを作ろうかと考えることができました」 相手役のクリスチャンも、井上芳雄と甲斐翔真が交代で演じる。「芳雄さんは、忘れていた何かを思い出させてくれる、きらきらとした情熱的なクリスチャン。翔真君は若さからくる真っ直ぐさがあって、恋を知らない人がのめり込んだら、こうなっていくんだなという危うさがありました。クリスチャンが変わると、こちらの受け取り方や反応が変わって面白い。お客さんからの見え方も違うと思います」 (時事通信社・中村正子) ◇「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」は帝国劇場で6月20日~8月7日、梅田芸術劇場で9月14~28日に上演。 〈後編に続く〉