ブレヒトの名作を白井晃演出で!『セツアンの善人』
20世紀最大の劇作家とも呼ばれるベルトルト・ブレヒトの代表作『セツアンの善人』が、世田谷パブリックシアターで上演される。 上演台本と演出を手掛けるのは、白井晃。2022年から演出家として世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める白井は、ブレヒトに大きな影響を受けているという。これまで『三文オペラ』『マハゴニー市の興亡』『Mann ist Mann』『アルトゥロ・ウイの興隆』など、多くのブレヒト作品を演出しているが、世田谷パブリックシアターの芸術監督としては満を持してのブレヒト作品になる。 ブレヒトは第二次世界大戦中にナチスに市民権をはく奪された後、『セツアンの善人』を亡命先で書いている。ブレヒト作品は、自身が第一次世界大戦で徴兵を経験したことから、反戦を訴える気持ちや資本主義への風刺などを織り込んだ作品が多い。が、同時にそこに観客が埋没するのではなく、ある程度の距離を持って眺められるような工夫が随所に施されている。今回も、寓話的な設定や音楽劇のような要素を取り入れながら、「人はどこまで善人でいられるのか」「人はお金で幸せになれるのか」といったテーマを投げかける作品になっている。 物語は、神々が地上に降りたち「善人探し」をするという設定で始まる。娼婦のシェン・テは、神々から「善人である」と認められ、与えられた大金を元手に商売を始める。しかし、彼女が善人であろうとすればするほど、生きることが困難な状況に陥り、行き詰まったシェン・テは自分を守るために架空の従兄を生み出し、冷徹にビジネスに徹する役割を与える…。 善人と冷徹な人間との二役の演じ分けが肝となる作品だが、葵わかながどのように役に挑むのかが楽しみだ。シェン・テと恋に落ちるヤン・スン役は白井演出が3度目となる木村達成。渡部豪太、七瀬なつみ、あめくみちこ、小林勝也他、実力派の俳優が顔を揃えている。また、3人の神様役としてラサール石井、小宮孝泰、松澤一之が登場する。 また、音楽劇としての楽しさも同時に味わえるのがこの作品の特徴。ブレヒト自身が委託した音楽家パウル・デッサウによる楽曲に加え、国広和毅のオリジナル楽曲も追加される予定になっている。 全編を通して訴えられる問いに自分だったらどう答えるか。現代社会を生きる観客たちに一石を投じる作品だ。 Text: Reiko Nakamura