「〇〇の話がしたい」第5回 安藤玉恵の「~祝ハン・ガンさん、ノーベル文学賞!~周回遅れのマイ韓国ブーム」
さまざまな著名人が、自分の趣味や好きな映画を語る連載「〇〇の話がしたい!」第6回には、映画「ラストマイル」やドラマ「無能の鷹」への出演が記憶に新しい俳優・安藤玉恵が登場する。数年前から韓国文学に興味を持ち、朗読イベントにも参加している安藤。韓国の作家ハン・ガンがアジア女性初のノーベル文学賞を受賞し、界隈が盛り上がっている今、韓国カルチャーをテーマに3つのトピックをつづってもらった。 【画像】〇〇の話がしたい!(他5件) 去る12月3日夜、韓国では尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領により突如として戒厳令が発令された。一転して明朝に解除されたものの、国全体に波紋が広がっている。この非常事態を受け、1980年に韓国で起きた光州事件が頭によぎった人も多いのではないか。ハン・ガンの作品「少年が来る」では戒厳令によって市民が武力弾圧を受けた民主化運動、光州事件が扱われている。隣の国で何が起きているのか。考えるきっかけとして今改めて心に刻みたい、同作品についても紹介している。 文 / 安藤玉恵 2024年10月10日、日本時間の夜9時くらいだったかしら。“本仲間”からLINEが入っていた。「ハン・ガンさん、ノーベル文学賞、受賞」と。即座にスマホのカメラを立ち上げ、びっくり&歓喜している自撮り写真を撮って返信。フツフツと湧き上がる喜び。 ドラマブームにも乗り遅れ、アイドルの熱狂にもついていけず、エステなどの美容にも残念ながら無頓着。そんな私が「~祝ハン・ガンさん、ノーベル文学賞!~周回遅れのマイ韓国ブーム」と題して、韓国カルチャーとの出会いから、ハングルの勉強を地道に続けている現在までを、まとめてみます。喜びの源を、自分で知りたい~! ■ 韓国文学との出会い 帯の文章に心を惹かれたんだったか、「82年生まれ、キム・ジヨン」を手に取った経緯は忘れた。しかし内容は衝撃的で、韓国文化についても知りたくなり、同書の翻訳を担当した斎藤真理子さんの「韓国文学の中心にあるもの」を読んだ。韓国は、日常的に詩を読むことが多いこと、文学教育が進んでいること、政治、社会とそれが連動していること。日本よりも。羨ましいなと思った。諸々のブームに乗り遅れた私は、文学という入り口で、やっと韓国に関心を持ち始めたのだった。特に関心を寄せたのは斎藤さんの著書にあった光州事件(編集部注:1980年に韓国・光州で起きた市民による民主化運動と軍による武力弾圧)を扱った作品。映画「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」で描かれていたことは、遠い昔のことではなく、私が生まれてから起こっていたことだった。時期を同じくして、神保町にあるチェッコリという韓国の本の専門店から朗読の依頼がくる。ハン・ガンさんの「少年が来る」との出会い。 ■ ハン・ガンの小説から受け取った思い ハン・ガンさんの「少年が来る」は光州事件を題材にしている。私が朗読したのは2章の「黒い吐息」。無惨に殺された若い死者の声。死んでいる自分の魂が、その身体の周辺を漂いながら、痛み、苦しみ、怒りを言葉にしていく。なぜ僕は殺されたのかという問いが投げかけるものの大きさ。魂は、生きていた時と同じように、優しい言葉を生者にかけもする。その言葉が読者の身体を芯から温める感じがする。 痛みを抱えている人に「寄り添う」という言葉が散見するようになったけど、ハン・ガンさんの「寄り添い」方が、本当の意味なのではないかと思える。「少年が来る」を読んで、戦争のことをもっと考えたいと思うようになったし、想像するとはどういうことなのか、思いやるとはどういうことなのか、ハン・ガンさんには遠く及ばなくても、自分の言葉を見つけたいと思うようにもなった。私の人生にそういう時間を与えてくれてありがとうと言いたい。 ■ いざ、韓国旅行へ 「韓国」に出会ってから一年。ハングル検定の入門級(ちょっとやったら誰でも受かるんだけどネ)に合格。いよいよ実家のご両親にご挨拶と言わんばかりに、韓国旅行へ。行く前に、同行の知人から猛烈にお勧めされたドラマ「私の解放日誌」「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」それぞれ16話を一気見。どハマり。自分と照らし合わせて、おばちゃん役の方々にものすごく感情移入してしまった。 韓国ドラマを見ていると、現場で会う初めましての若い俳優さんとも会話が弾むことがわかって、韓国カルチャーを受け入れること自体がもうとっくに日本のカルチャーなんだと気づく。 釜山とソウルに行って、活気のある市場や、評判のいいミュージカルを見たりした。美味しい冷麺を食べた。民族酒に認定されたという貴重なマッコリも飲んだ。現代美術館にも行った。漢江の公園のベンチに座って大きな川を眺めながら、またすぐにここに来ようと思った。 おわりに。 少子高齢化、都市の家賃の高さ、アメリカの影響力、などなどパッと思いつくことでも日本との共通点が多い韓国。大体、スガタカタチも似通っている。日帰りで遊びに行く人もいると聞いた。そんな軽いフットワークで、もっと知りたいと思う。韓国のことを知れば知るほど、まるで鏡のように、日本のことを考えることになるから。 最後に。ハン・ガンさんの「菜食主義者」がイタリアで舞台化されてるんですって。目の付け所がすごいなイタリア。日本でも誰かやらないかしら。 ■ 安藤玉恵(アンドウタマエ) 1976年8月8日生まれ、東京都出身。俳優。最近の出演作に、映画「波紋」「PERFECT DAYS」「ラストマイル」、連続テレビ小説「らんまん」、テレビ朝日系2024年10月期ドラマ「無能の鷹」、 CM「東京ガス」などがある。数々の舞台に出演し、主な作品に「グリークス」「命、ギガ長ス」「阿修羅のごとく」「桜の園」「スプーンフェイス・スタインバーグ」など。2025年2月8日から22日にかけて神奈川・KAAT神奈川芸術劇場で上演される、舞台「花と龍」への出演を控える。同舞台は富山、兵庫、北九州公演あり。また、2025年3月25日には東京・日暮里サニーホールにて「サニーホールLive!おはなし音楽会」の音楽朗読劇に出演。