米ポートランドへの旅、ラグジュアリーホテルも実は「建物遺産」 歴史を満喫
■屋台が集まる広場は今、ラグジュアリーホテル
2023年10月31日、ダウンタウンのワシントン通り、アルダー通り、10番街に囲まれ、かつてフードカートと呼ばれる屋台が並んだエリアに「ザ・リッツ・カールトン ポートランド」がオープンした。ラグジュアリーブランドの「ザ・リッツ・カールトン」として、米国北西部初のホテルとなる。251室、35階建て、高さ約140メートル。鏡面のように輝く建物は、ポートランドのホテルとしては1番の高さで、ひときわ目を引く。 建物の下層部の外観は白色で、オレゴン州西部の柱状玄武岩層からインスピレーションを得ているという。フロントからロビーまで続く高い天井の空間には白い枝にLEDランプがつく照明が広がり、壁の間からはグリーンがのぞく。ダウンタウンからすぐに広がる森林公園に入っていくようなイメージを表現しているという。ロビーにあるバーの木のテーブルは、山火事にあったオレゴンの森から拾い出された切り株が支えている。 ポートランド市内で唯一という屋内インフィニティプールは「Hidden Mountain Lake (隠れた山間の湖)」と名付けられており、壁には、コロンビア川流域を切り開いたルイス&クラーク探検隊の手紙や地図が架かっている。 モダンな客室にも山と森を感じさせるアートがふんだんにあしらわれている。ランプは、セントラルオレゴンで産出されていたクリスタルに着想を得ている。旅行トランクを思わせるミニバーも粋だ。 1階のアルダー通り側には来春、上述の歴史的なフードカートをトリビュートしたフードホール「Flock (フロック)」ができるという。130席以上が設けられ、夏には通りに面して開放されるような造りになる予定。ポートランドの小さな屋台から羽ばたいたフードビジネスも多く、ラグジュアリーなホテルの一部にそうした人々を応援するような場を作るのがなんともポートランドらしい。
■老舗百貨店ビルに空港がテーマのホテル
ポートランド市ダウンタウンの中心にある広場「パイオニア コートハウス スクエア」は毎年、300を超えるイベントが開かれる。市民からも資金を募って建設され、1984年に完成した。広場に敷き詰められたレンガには、この建設資金を寄付した市民の名前が刻まれている。また、ライトレールの5路線が乗り入れる交通の要所でもある。 その広場を見下ろすように立つ15階建ての建物は、かつて「マイヤー&フランク」という百貨店だった。現在の白いテラコッタの優美な建物ができたのは1900年代初頭で、まだ同ホテルができる前である。以来、改修工事を経て2006年に買収によりその名前が「メイシーズ」に変わるまで、米国北西部随一の百貨店であり、その名前は地元の誇りでもあった。現在は、日本の「MUJI(無印良品)」がテナントとして入り、さらに様変わりしている。 そんな歴史的な建物の8階から15階に、331室の「ザ ナインズ ラグジュアリー コレクション ホテル ポートランド」はある。開業は08年だ。8階のロビーは、コンテンポラリーな空港のラウンジをテーマにした吹き抜けのアトリウム大空間。ゲストたちがおしゃべりをしたり、ガイドブックを見たりと思い思いに過ごせるソファが配されている。最上階にある素晴らしい眺望の屋外デッキを備えたレストランも「Departure (ディパーチャー レストラン)」という名前で、旅のワクワクした気持ちをかき立てる。 ロビー階には、オレゴンはじめ米国北西部でサステナブルな方法で飼育された牛肉など食材にこだわった「アーバン ファーマー ステーキハウス」と、ポートランドの名物書店「パウエルズ・シティ・オブ・ブックス」によって厳選された2000冊を超える書籍やボードゲームが置かれた「ライブラリー」もあり、ゲストは自由に利用できる。 アトリウム、レストラン、ロビー、客室など館内のそこここで目を引く独創的なアートは、地元アーティストに委託して制作されており、400点を超える。絵画、彫刻、インスタレーションと多岐にわたり、アンディ・ウォーホルの親友であったオレゴン州生まれの写真家ペイジ・パウエルによってキュレーションされたコレクションである。 客室は、ラグジュアリー感にあふれるゴールドがかったベージュにスカイブルーのアクセントが独創的なインテリアで、ほかにないぜいたくさを味わえる。モダンななかに、天井から下がるランプやベッドヘッド、壁のモチーフなどがノスタルジックでグラマラスな雰囲気を醸す。窓からは、外の景色と内部のアトリウムを眺める部屋があり、どちらも目に飛び込んで来るのは、ポートランドとこの場所の歴史を感じされるような風景だ。 ホテルの改築にあたって出た資材や家具は、すべて慈善団体に寄付したという。レストランでは未使用食品を寄付するなどして食品廃棄物の削減を図っており、環境と資源に配慮したグリーンビルディングに対する国際認証制度LEEDの認定を受けている。 文:小野アムスデン道子(ライター)
小野アムスデン道子
旅行ガイドブック『ロンリープラネット日本語版』(メディアファクトリー)の編集を経てフリーに。東京と米ポートランドのデュアルライフを送りながら、国内外の旅の楽しみ方を中心に、食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース。日本旅行作家協会会員。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。