「やる気ない」「独特すぎる」の声もあるが…パリ五輪キャスター・内村航平への批判が的外れなワケ
内村のコメントはなぜ神がかったのか?
神がかりコメントは続く。スタジオから続けて「選手たちには、おめでとうという声掛けなのか、ありがとうという気持ちなのか、どっちが強いですか」とコメントを求められる。少し間を置いた内村は、「お腹いっぱいです」とカメラ目線で言葉にした。「おめでとうも、ありがとうも、ありきたり過ぎる」のだと、元世界王者にしか引っ張り出せない表現力。 SNS上では打って変わり、「独特過ぎて面白い」などの高評価が散見され、スタジオからもいつも淡々としている内村だが、このときばかりは笑顔を見られて嬉しいといった祝福コメントがかぶさる。 確かに独特な表現とはいえ、内村のコメントはなぜこうも神がかったのか?きっと彼の瞳の奥では、2016年のリオデジャネイロ大会を追想していたんじゃないかな。2012年のロンドン大会から2大会連続で個人総合金メダルを獲得したあの大会もまた、パリ大会の団体決勝同様に奇跡の大逆転勝利だったからだ。
リオデジャネイロ大会での大逆転勝利
内村にとって連覇がかかったリオデジャネイロ大会の個人総合決勝は、ウクライナ代表の猛者ベルニャエフ選手との一騎打ちだった。床に始まり、あん馬、つり輪を完璧な着地でまとめる内村だったが、平行棒で16点台の好記録を叩き出したベルニャエフがリードする。 迎えた最終種目。日本人選手がもっとも得意とする鉄棒である。高難易度の大技リ・シャオペンを華麗に決めた跳馬も素晴らしかったが、屈伸のコバチからカッシーナへとシームレスにつながる鉄棒の手放し技は圧巻。緊張の着地も見事に地面を捉え、15.8点。床から鉄棒まで正ローテーションで演技した内村が、全種目に精通するオールラウンダーの神業でベルニャエフに大逆転勝利した。 内村は、団体決勝でも金メダルを獲得したが、実は予選の鉄棒では屈伸のコバチで落下するミスがあった。ドラマにドラマを重ねる人である。最終種目まで結果がわからず、鉄棒にすべてを託した体操ドラマのクライマックスは、パリ大会団体総合決勝で日本代表選手5人によって鮮やかに再現された。 さらにパリ大会個人総合決勝でも20歳の実力派ハニカミ王子・岡慎之助が正ローテーションを制して金メダル(ウクライナ代表のベルニャエフとコフトゥンが平行棒で高得点を叩き出したのもドラマティックだった)。日本代表がロンドン大会から4大会を制覇する記録をつないだ。 遠藤幸雄が個人総合、団体総合、平行棒で金メダルを獲った1964年の東京大会を取材した作家・三島由紀夫は、体操の芸術性について、「全く体操の美技を見ると、人間はたしかに昔、神だったのだろうという気がする」(三島由紀夫「体操の練習風景」)と書いている。 オリンピック現役選手としてもオリンピックをナビゲートする伝える立場としても、内村航平は「たしかに昔、神だったのだろうという気がする」のだ。 <文/加賀谷健> 【加賀谷健】 音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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