「ある種の強みです」ジャニーズ・松本問題ほぼ影響なし! 元テレ東Pが明かすブレない独自路線の秘密
テレビ東京の開局は1964年。NHKや日本テレビに遅れること11年、在京キー5局の中では、最も後発である。そのためネット局は自局を含めて6局しかない。もちろん、最少だ。東北、北陸、新潟、そして四国と九州のほとんどでは視聴できないため、そのエリアは「テレ東不毛地帯」と言われている。 また、最新の’24年3月期(’23年4月~’24年3月)の「上期プライムタイム(19時~23時)世帯視聴率」は、トップのテレ朝の8.7%に比べて4.5%と完全に見劣りする。社員数においても、テレ東は’23年3月31日の時点で775名。同時期に最も多い日テレ1380名の56%しかいない。全体売上を比べても、’23年3月期のテレ東は1134億6600万円でトップの日テレの3分の1にも満たない。 テレビ東京は、このように実体も経営規模も最小・最弱なのである。 ◆「カネを使うな、頭を使え! 頭がなければ、足を使え!」 「収益が少ない」というのは、平たく言えば「カネがない」ということだ。当然のことながら、現場の制作費にもカネをかけられない。私のAD時代には、先輩Dから「カネを使うな、頭を使え! 頭がなければ、足を使え!」と言われていた。いまだと完全に「パワハラ」で「アウト!」だが、当時、それを聞いたクリエイターたちが生み出したのが、以下の二つの手法である。 ①セットはカネがかかる⇒外ロケはタダ! ②タレントはカネがかかる⇒素人は安上がり! ①の発想から生まれたのが、『いい旅・夢気分』などの旅番組である。 ②の手法はいまもテレ東のDNAとして受け継がれている。一時期、バラエティ番組でタレントをたくさん並べてにぎやかさを演出する「ひな壇」というのが流行ったが、そんなトレンドにもテレ東は乗らなかった。 素人がいろいろなことを競い合う『TVチャンピオン』からは、「大食い選手権」という企画が生まれた。『開運!なんでも鑑定団』は、視聴者に自宅にある「お宝」を持ち寄ってもらおうという発想だ。 カネがないので大物タレントもキャスティングできない。松本人志氏が出演していないのも、そういう理由である。当然、旧ジャニーズ事務所にお願いしても、売れているタレントは回ってこない。 他局のように「高いギャラを払う」ことができないテレ東は、タレント事務所にとって〝オイシイ〟存在ではない。だから、あまりそこには「忖度」が生まれない。もちろん、多少の忖度はあるだろう。しかし、テレ東はそんなに大きな「うま味」を享受できているわけではないので、今回のような事件が起こっても「痛手」が少ないのである。 ■後編では、ブレない独自路線の根本にある「テレ東魂」を深掘りする。 文:田淵俊彦 桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。’64年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100ヵ国以上。一方、社会派ドキュメンタリーの制作も意欲的に行い、「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」などの難題にも挑む。ドラマのプロデュース作品も数多い。’23年3月にテレビ東京を退社。著書に『混沌時代の新・テレビ論』『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える〝テレ東流〟逆転発想の秘密』『発達障害と少年犯罪』『ストーカー加害者 私から、逃げてください』『秘境に学ぶ幸せのかたち』など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。 https://35produce.com/
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