クーラ・シェイカー来日公演を総括 間違いなく新たな黄金期を迎えている4人の圧倒的快演
過去のレパートリーにも新たな命を吹き込む
そしてここからは「Start All Over」「Greatful When You’re Dead」「Jerry Was There」と、デビュー作『K』収録曲を続けざまに。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが亡くなったのは「Jerry Was There」が発表される前年、95年だったことを思い出す。あのように彼らが60sサイケデリック・カルチャーの継承者であることを真正面から宣言した点も、90年代後半の音楽シーンにおいてはかなり異色だった。曲が終わると、クリスピアンは「ジェリーはここにいたかい? 僕はそう感じたよ」と客席へ穏やかに語りかける。 出たばかりのニュー・アルバムをプロモーションするツアーなのに、未発表の新曲「Rational Man」を披露したことにも驚かされた。扇情的なリフを持つロックンロールなのに、歌詞では「僕は理性的な男」と歌うねじれ具合が絶品。久しぶりに「S.O.S.」を演奏したこともそうだが、ガレージ・パンク方面に気持ちが戻っている時期なのかも、と思わされる強力な1曲だった。 続いて、再び『Peasants, Pigs & Astronauts』から「Sound Of Drums」と「Shower Your Love」を。以前クリスピアンにこのアルバムについて訊いたとき、プロデューサーのボブ・エズリンと今ひとつ相性が合わず、完成まで苦労したとこぼしていた。当時背負っていた“2枚目のジンクス”から解放され、伸び伸びと演奏されるこれらの曲は、それぞれ年輪を重ねてきた4人の持ち味が存分に発揮されており、長年のファンとしては何とも感慨深かった。 思索的な歌詞が熱い佳曲「2Styx」を経て、新作から「Idon’twannapaymytaxes」「F-Bombs」と、時事的にも今の気分にフィットする曲が続く。後者では“ファック・ウォー”のコール&レスポンスを繰り広げ、気骨を見せた。インタビューで「僕たちは政治的なバンドじゃないし、そうなれるほど偉ぶってはいない」と控えめに言っていたクリスピアンだが、このように“今言うべきこと”をビシッと正面切って言える人なのだ。 オルガンの反復するイントロがザ・フーを彷彿させる「Song Of Love / Narayana」辺りまで来るとクリスピアンの声はかなり枯れていたが、気合いで振り絞って一歩も後退しないからさすが。新作からのバラード「Stay With Me Tonight」を切々と歌ってから、ジェイのオルガンが一際耳に残るミドルチューン「Happy Birthday」へとなだれ込んでいく。 終盤は初期の人気曲を立て続けに。クリスピアンの痛快なワウ・ギターが先導する「303」の後には当初「Tattva」が予定されていたが、これを飛ばして「Hush」に突入。4人が一丸となり、豪快なグルーヴ・マシーンと化して本編を終えた。 熱烈な拍手に応えて、アンコールは『K』から3曲演奏。「Tattva」「Hey Dude」で踊らせてから、クリスピアンは「Namami Nanda-Nandana」の瞑想するようなメロディを弾き始めた。このアドリブパートで一旦マックスまで持って行ってから、「Govinda」につなぐ劇的な展開はこの日のハイライト。オリジナル・メンバーで自信作を作り上げた勢いを保ったまま、過去のレパートリーにも新たな命を吹き込んでいる現在のクーラ・シェイカーは、間違いなく新たな黄金期を迎えている……そう確信させてくれる、圧倒的なエンディングだった。 --- 〈セットリスト〉 1. Gaslighting 2. Waves 3. Natural Magick 4. Indian Record Player 5. Infinite Sun 6. S.O.S. 7. Start All Over 8. Grateful When You’re Dead 9. Jerry Was There 10. Rational Man 11. Sound of Drums 12. Shower Your Love 13. 2STYX 14. Idon’twannapaymytaxes 15. F-Bombs 16. Song of Love / Narayana 17. Stay With Me Tonight 18. Happy Birthday 19. 303 20. Hush 〈アンコール〉 21. Tattva 22. Hey Dude 23. Govinda クーラ・シェイカー 『Natural Magick | ナチュラル・マジック』 発売中
Masatoshi Arano