森田美勇人「レモネードソーダ」
写真を撮ることにこだわりを持つアーティストや俳優・声優による連載「QJカメラ部」。 【写真】スタッフが撮影したスタイル抜群の森田美勇人 土曜日はアーティスト、モデルとして活動する森田美勇人が担当。2021年11月に自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」をスタート、さらに2022年3月には自らのフィルムカメラで撮り下ろした写真をヨウジヤマモト社のフィルターを通してグラフィックアートで表現したコレクション「Ground Y x Myuto Morita Collection」を発表するなどアートにも造詣が深い彼が日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
非現実的な人混みの中で
第101回。 世の中は花見で賑わっていた。 この日は晴れて暖かく、目黒川は陽気なムードで埋め尽くされ、街ゆくカップルが肩をこすらせ微笑んでいる。 非現実的な人混みの光景は、もはや桜が霞むほどだった。 私は飲み物を欲していた。 川沿いからひとつ外れた道を涼しげに歩きながら、喉は人一倍乾いていた。 自動販売機で水を買うこともできたが、せっかくのお祭りムードを引きずってカフェを探している。 どこも満席、大行列である。 1杯のコーヒーを買うのに30分ほどの時間を費やすのは正気の沙汰ではない。 そんな人混みを若干冷めた目で通り過ぎては次を探し、私の喉はついに限界を迎えていた。 それでもここで自動販売機に手を伸ばすのは負けた気がして歩みを止められない。 ようやく人気のない路地にある隠れ家のようなカフェを見つけて2階に上がると、店前には満席の文字。 注文は空いていたので、持ち帰りで済まそうとレジに着くと「あれ、初めての方ですか?」と少し驚きながら話しかけられた。 「え、初めてです」 「あ、すみません、友達に似ていたのでつい……」 「あ、そうでしたか」 (いや友達だとしたら、初めてかどうか相手に聞かないだろう……。広く浅く友達100人タイプか) 「今満席なんですけど、カウンター席なら17時まで大丈夫ですよ」 「ほ、ほんとですか……。じゃあお願いします。ありがとうございます」 (浅い交友関係などと疑って本当にごめんなさい……。友達最高) 世紀末のように乾ききった喉に流し込んだレモネードソーダを私は忘れない。 奇跡的に座らせてくれたマスターの優しさとと自分の愚かさを戒めるために私は席に着き、この記事を残している。 カフェを探し始めてからは1時間が経っていた。