熊本初の夜間中学「ゆうあい中」 多様なクラスメートがグータッチに込める思いとは… 熊日記者が1日〝特別入学〟
4月に熊本県内初の県立夜間中学校として開校した「ゆうあい中」(熊本市中央区)。10~80代の新入生34人が、「学び直し」の歩みを進めている。異なる人生を背負いながらそれぞれの暮らしの中で、生徒たちはどんな表情で、どんな勉強をしているのだろう。今月上旬、1年生のクラスに〝特別入学〟し、机を並べて1日密着した。(上野史央里) 「こんばんは。今日は5月10日金曜日です」。午後5時35分、夜間中学「ゆうあい中」(熊本市中央区)は、日直の金城碩求さん(73)と木本礼子さん(68)のあいさつから始まった。着席した1年生17人は前を向き、授業を心待ちするような表情を浮かべていた。 今年の4月時点で、夜間中学は24都道府県に53校。文部科学省は各都道府県と政令市に、少なくとも1校以上の設置を進めている。2025年度は鹿児島県などでも開校する予定だ。 ゆうあい中では、不登校や病気などで義務教育を十分に受けられなかった県内在住の10~80代の34人が在籍。3学年に分かれ、平日の午後5時35分から9時10分まで、4時限の授業を受けている。1限は40分間で休憩はわずか5分間ずつ。
「今日の目標は正の数、負の数の乗法ができるようになることです」。2限目の数学の授業。生徒たちは中村愛教諭(41)の声に耳を傾け、筆箱から鉛筆やシャープペンシルを取り出して黙々と問題に取りかかる。虫眼鏡で一字ずつ追いかける生徒の姿も。ワークシートの漢字は全て振り仮名付き。教室にいる大学生サポーターが、問題に苦戦している生徒の隣で教えていた。 九九のプリントが配られると、おしゃべりが始まった。「九九を覚えるのは大変だった」「給食の時や家でも読まされた」。1人ずつ解答に丸を付けていた中村教諭は「みなさん九九の表は久しぶりに見たでしょう。ミャンマーは12×12まであるそうですよ」。何げない会話の中に、幅広い年代や異なる国籍の生徒が集まっていることを感じた。 給食は希望制。隣接する湧心館高の食堂で食べられる。この日のおかずはみそカツ。20分ほどの夕飯は、学校の楽しみの一つだろう。 小原ひとみ校長は「生徒たちは開校当初よりも笑顔が増え、目線も上がってきた。自信を持てるようになってきたからでは」と語る。義務教育の9年間は転校が多く、勉強を諦めていたという木本さんは「年代が違う人と同じ教室で学ぶのは想像以上に楽しい。授業は新鮮で身に付いていると思う」と目を輝かせた。
辺りが真っ暗になった午後9時過ぎ。日直のあいさつの後、近くの人とグータッチをして終わった。 机に座って授業を受けるのは久しぶりで、想像以上にぐったり。ただ遠方から通学したり仕事後に登校したりする生徒たちは、もっと大変なはずだ。問題を解くスピードや理解度もさまざま。それでも「学びたい」という思いを胸に抱く生徒と、懸命に指導する教職員は生き生きとしていた。最後のグータッチには一日の労をねぎらう優しさと、これからも互いにがんばろうと励まし合う温かな思いが詰まっているようだった。(上野史央里)