A24ホラー最大ヒット作を編集者らが本音レビュー!『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の評価は?
登録者数682万人(2023年12月23日現在)の YouTubeチャンネル「RackaRacka」を主宰する双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟が初監督を務め、『ミッドサマー』(19)の気鋭スタジオA24が北米配給して今夏大ヒットを記録したホラー映画、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』が公開中だ。 【写真を見る】あまりにも残酷…降霊会での少年の悲惨すぎる運命に背筋が凍る この公開を記念して、作品を鑑賞した映画媒体の編集者を集めて座談会を実施。参加したのは映画の趣味も、世代もバラバラな4名だ。 あらゆるジャンルの映画に精通した「DVD&動画配信でーた」編集長の西川(40代・男性)、ホラー映画がちょっぴり苦手という「シネコンウォーカー」編集部の南里(30代・女性)、「MOVIE WALKER PRESS」の最年少編集部員である山下(20代・男性)、そしてホラーに特化した「MOVIE WALKER PRESS HORROR」編集部からホラーマニアの三浦(30代・男性)。彼らは新時代のクリエイターが放つホラー映画をどんな視点で見たのだろうか? ■“YouTuber監督”と侮るなかれ!王道を破る秀逸なホラー映画に 母を亡くした痛みを抱える17歳のミア(ソフィー・ワイルド)は、父親とも気まずい関係が続き、日々寂しさを感じていた。そんなある時、同級生たちの間で流行っている“憑依チャレンジ”を行なうパーティに、親友のジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)と共に興味本位で参加する。そこでスリルと背徳感、そして高揚感を味わったことからたちまち“憑依チャレンジ”の虜になっていくミア。しかし再びパーティに参加したミアは降霊のルールを破ってしまい、ジェイドの弟ライリー(ジョー・バード)が邪悪な魂に支配されてしまうことになる。 山下「僕はずばり“ミッドサマー世代”なんです。学生の時に『ミッドサマー』を観て、その後に『ヘレディタリー/継承』を観てA24作品にハマりました。『ミッドサマー』を友だちと映画館に観に行った後、妙に気まずい空気になったのがいまだに苦い思い出なんですが(笑)。本作は変な空気にならずに考察を語り合えるタイプの作品だったので、とても安心しました」 西川「それ、すごくわかります。終わった後にニコニコみんなで話せるのが『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の良いところです」 山下「でも観る前は、監督のフィリッポウ兄弟がYouTuberだと聞いて『どんなクオリティなんだ?』と少し不安で。でも実際に観てみると、A24が惚れ込んだ理由がよくわかりました」 三浦「YouTube発というと、自撮り棒で撮ったような映画なんじゃないかと…(笑)。それはそれでPOVホラーの新しい形になるかもしれませんが、もっと正統派のホラーだったので、それはうれしい誤算でした」 西川「映像表現の安定感もさることながら、とにかく伏線の張り方が秀逸だと感じました。序盤でカンガルーが道端で死んでいる描写とか、そういった細かいものが後々きれいに回収されていく。ストーリー自体も意外性があって、主人公のミアの設定から考えると、普通ホラーだったら、霊体験を家族の喪失に置き換えて、怪異というメタファーに打ち勝って父親との絆を取り戻す…みたいな話になりがちじゃないですか」 三浦「8月に公開されたロブ・サヴェッジ監督の『ブギーマン』はまさにそういう映画でしたよね」 西川「そうそう。設定の土台は『ブギーマン』に近しいものがあるけど、そういう王道の展開にあえて捻りを効かせることで、思っていた方向と全然違う方へ連れていってくれる。すごく新鮮なホラー映画を作る人たちが現れたなあと感心しています」 南里「私は、ホラー映画を観てくれと言われて、『嫌だなあ…怖いなあ…』ってハンカチを握りしめながら観たんですけど…」 西川「ちょっと待って、そのハンカチはなにに使うんですか?(笑)」 南里「急になにか出てきたり、大きい音がするのが苦手で…顔を隠しながら観る用です(笑)」 三浦「ホラー映画で定番のビックリ演出、いわゆるジャンプスケアというやつですね」 南里「ホラーはいつもそうして観始めて、大丈夫そうだなと思ったらちょっとずつハンカチを下げていくんです。今回はいつのまにかハンカチを下げていて、作品の世界にどんどんのめり込んでいました」 山下「怖い描写もたくさんありましたけど、ホラーが苦手な南里さんが大丈夫だった理由がとても気になります」 南里「若者たちが降霊術をやるというシチュエーションが、なんだか“コックリさん”を見ているようで懐かしくって。ホラーは苦手ですけど、都市伝説とかおまじないのようなオカルトものはすごく好きなんです。それにいくつも謎が散りばめられていて、『なんでここでこうなった?』みたいな展開に引き込まれて。なので、私みたいなジャンプスケアのホラーが苦手という人でも、謎解き感覚で楽しんで観られるんじゃないでしょうか」 三浦「逆にホラーファンとしては、見た目が怖い幽霊が出てきてくれたのがうれしかった部分(笑)。理屈がまったく通用しない相手というのも加点要素ですし、彼らがいる“あちら側”と主人公たちの“こちら側”の違いが徐々に明かされていく筋書きも興味が尽きない。フィリッポウ兄弟のYouTubeチャンネル『RackaRacka』の悪ノリからは想像できないくらい真面目に作り込まれていて、ちゃんと怖い映画でした」 ■現代の若者の“孤独感”を恐怖に結びつける、斬新な着眼点 西川「アメリカでは、今年のサマーシーズンに公開されてアリ・アスターの『ヘレディタリー/継承』を抜いてA24ホラーで最高の興収を記録したとのことです。やっぱりそれだけヒットしたのは、設定のキャッチーさがあったからですよね」 南里「すごくそう思います。あの“手”があれば、誰でもできそうなシチュエーションなんですよね。まあ普通は持ってないですけど(笑)」 西川「“90秒憑依チャレンジ”というのもすごく説明しやすいですね、『それ以上やったらまずい』ってすぐわかるし。双子の友人が霊に取り憑かれる体験を楽しむ10代の少年たちを描いた短編映画を2人に共有したことから生まれたアイデアだと聞きましたが、その着眼点は現代の若者の感性をよく理解していないとできないですよね」 南里「オーストラリアの若者とリアルに接する機会はなかなかありませんけど、孤独を抱えた人がなにかにのめり込んだり取り憑かれていくところは、万国共通の若者心理を捉えていると思えました」 西川「フィリッポウ兄弟は、常にSNSで繋がっていないといけない孤独感を脚本に落とし込んだと言っていました。そういった意味では、若者に限らず現代人にとってすごく共感できる作品なのかもしれませんね」 南里「SNSで繋がっているからといって友だちが多いわけではない。心のなかではそうわかっていても、SNSでの繋がりばかりを求めてしまうことって、大人でもありますよね」 三浦「僕が学生の頃は、みんなで集まって動画を撮影して手軽にシェアする習慣がまだなかった。写真を撮ることがあっても、この映画のようにその場で加工して共有する…というのはデジタルネイティブ世代ならではのこと。最近はすぐシェアできることが当たり前になりすぎていますが、心霊現象を加工する場面というのは、これまであまりホラー映画で見かけなかったようにも思いました。登場するキャラクターに年齢が近しい山下さんは、本作のSNS描写をどう感じました?」 山下「本当に当たり前の描写すぎて、考えたことがなかったですね…」 西川「10年くらい前にも『アンフレンデッド』という、動画がネット上にアップされたことに端を発したホラー映画がありましたが、最近はより身近なものになっていますからね。でも今回の映画は、SNSに拡散された“先”が描かれなかったのも特徴的で、それも当たり前なものだからなのかもしれませんね。それよりも、みんなでワイワイやっているなかで感じる孤独というか、1人でいる方が楽で、周囲といるときに浮いちゃう感覚みたいなものが、現代的な孤独描写のあらわれに思えました」 三浦「周りに乗っかれていないからこそ孤独を感じる。そこに共感が集まってヒットしたというのはすごくわかります。友だちがいない孤独よりも大人数でいる時の孤独の方が刺さるというか、“ここじゃない”という感覚が、いまの時代にマッチしていますね」 西川「危険なことをやってみたらその場だけは輪のなかに入ることができるけど、ずっと続くわけでもない。ちょっとだけ認めてもらえるぐらいが余計に孤独なのかな…。しかもミアの場合は家に帰っても孤独で、行き場がない」 南里「お父さんはきちんと父親としての役割を果たしてくれているんだけど、心の距離は埋めようがないほど開いてしまっている。ミアが感じる、孤独感の塩梅が絶妙ですよね」 ■名だたる巨匠たちが絶賛!ホラー新時代を盛り上げる一本に 三浦「先ほど、山下さんから『A24が惚れ込んだ理由がわかる』という話がありましたけど、降霊術のシーンでも『こう展開したら嫌だな』という生理的な怖さをしっかり伝えてくるところにA24らしさを感じました。自分の見られたくない面を突きつけられるような…アリ・アスターほど粘着質ではなかったですが(笑)」 西川「アリ・アスターの映画はもっと内面にこもった感じで、まるで自己セラピーに付き合っているような印象を受けますけど、フィリッポウ兄弟はすごくあっけらかんとしてジメジメしていないし、もっと外に向けられていることがよくわかりますね。彼らがどんな映画を作ったとしても、安心して観られるものになる気がします」 南里「フィリッポウ兄弟は、今後どんな監督になっていくと思いますか?」 西川「昔から映画の世界にはCMやMVから巨匠になった監督たちがいますよね。リドリー・スコットやデヴィッド・フィンチャーとか。その新しいかたちがYouTuberとなる、先駆けでしょうね。そのレベルの監督になってくれたら、最初の作品から追いかけている僕らもうれしいですし(笑)」 山下「実力があることは、この一本で間違いないと言えますからね」 西川「さっき名前があがった『ブギーマン』のロブ・サヴェッジはフィリッポウ兄弟と同じ1992年生まれだし、『SMILE/スマイル』のパーカー・フィンは1987年生まれ。若手世代からも、オーソドックスなホラー演出ができる監督がこの数年で現れてきたというのはおもしろい流れですよね」 三浦「先日フィリッポウ兄弟が来日した際に、サンダンス映画祭の後にジョーダン・ピールやアリ・アスターから連絡をもらったと言っていました。もう彼らに続く監督が出てきたというのは世代交代の早いホラー映画界らしいことですし、それだけいまホラーが盛り上がっていることの証明でもありますね」 西川「あとスティーヴン・キングやサム・ライミ、ピーター・ジャクソンのようなホラー界隈の重鎮的な人たちも褒めていたようですし、スティーブン・スピルバーグも絶賛したと。やっぱりスピルバーグはどんなジャンルでも新しい才能が出てくるのがうれしいんでしょうね」 ■続編『Talk 2 Me』に期待するものは? 山下「フィリッポウ兄弟は続編の『Talk 2 Me』をA24製作で作る予定とのことですが、続編にはどんなことを期待しますか?」 西川「あの衝撃的なラストから直接繋がる、ストレートな続編もいいですし、別の視点から描くのもありだと思いますね。観ていない方はちんぷんかんぷんだと思いますが、例えば“病室の女の子”が誰だったのかなど、あえて語られていないところを深掘りしていく映画になるのではないでしょうか。あの“手”の秘密とか…」 南里「“手”の本当の持ち主は気になりますよね。劇中では降霊術師だったか悪魔関係の人だったかと話には出てきましたが。“手”の誕生を描く『ビギニング』もいいですね」 山下「僕はミアと親友のジェイドが仲違いしてしまうのが心残りだったので、ジェイド側から描いた物語も観てみたいです」 南里「シスターフッドですね。泣かせるホラーになりそう…!」 三浦「『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』みたいに幽霊側の視点で描いていく、なんていうのもA24っぽくていいかもしれません」 西川「どんな視点にでも置き換えられるというのは、本作のアイデアが秀逸だからこそですね。続編にも期待していきましょう!」 取材・文/久保田和馬