伊藤華英と柳原真緒が「アスリートの生理」の課題を語り合う「GPを獲れたのは生理に対処できたからだと絶対に言いきれる」
【生理への対処ができたからタイトルが獲れた】 ――目標にしていたレースや獲りたかったタイトルで、生理が理由で獲れなかったものはありますか。 柳原 なぜかあまり、ビッグレースにはかぶらなかったんですよね。だからビッグレースでは、結構いいレースができていると思います。 伊藤 私はアテネ五輪の選考会(2004年日本選手権)と北京五輪本番(2008年)で、生理の影響があって乗りきることができませんでした。アテネ五輪の選考会の時は19歳だったんですが、当時はまだ生理前のPMS(※)のしんどさを理解していなくて、緊張とプレッシャーで、自分は弱いんだなと思ってしまったんです。プールサイドでコーチと「どうする午後の決勝?」と話していたら、涙が出てきちゃったんですよ。なんでこんなに悲しいんだろう、と。今思えば、極度の緊張と生理前のバットコンディションが重なっていたからなんだろうなと感じています。結局3位になってしまって、オリンピック本番には出場できませんでした。※月経前症候群:月経前の下腹部痛や乳房の痛みや張り、腰痛、頭痛、肩こりなど ――北京五輪の時はどんな状態だったんですか。 伊藤 北京五輪には出場できたんですが、本番の少し前から中用量ピルを飲んでいました。それで体重が増えてしまったんです。1キロ増えただけでもコンディションに影響するんですが、その時は4~5キロ増えていました。3カ月くらい前から「太っている」と言われ続けていて、自分なりに1度もいい練習ができた記憶がありません。メダルを狙っていたのに気持ちも乗らなくて、結局、決勝で8位。ただ、そこでも生理については真剣に考えていなくて、引退してから初めて、生理はアスリートにとって大きな課題だなと認識しました。
――柳原選手は、自分に合った対処法で生理に対して悩みがなくなったということですが、ガールズグランプリを獲れたのも、賞金ランキングで常に上位争いができているのも、生理への対処ができていたからでしょうか。 柳原 自分のなかでは"絶対"というくらい言いきれますね。生理に結構、振り回されていましたから。 伊藤 自分の目標をしっかりと持たれていたことが、具体的なアクションにつながって、今の成績があると思います。柳原選手の存在がほかの選手にいい影響を与えられると思いますね。 【それぞれの対処法がある】 ――伊藤さんは生理の課題について、ガールズケイリンの選手にレクチャーされていますが、このような指導を受けることによって、柳原選手の周りでも意識が変わってきているなと感じることはありますか。 柳原 生理について会話するようになりました。自分は専門の先生から処方された薬を毎日飲んでいるんですが、その姿を見て「何を飲んでいるの?」と聞かれますね。でも処方されないといけない薬なので、普通の婦人科に行ってももらえなかったという人もいました。専門の先生に行かないといけないんですよね。 伊藤 そうですね。運動を休めば対処できることはたくさんありますが、先生にも競技の特性を理解してもらったうえで、競技を続けていくためにはどうすべきか、そこまでしっかりと話のできる先生のところに行けるといいです。アスリート外来など、知見や事例が多いところであれば、そのアスリートにあったベストの対処法を教えてもらえると思います。――まだ適した対処法ができている選手が少ないガールズケイリンの状況について、伊藤さんから見て、改善点などがあれば、教えてください。 伊藤 柳原選手のような対処事例や、競輪選手ならではの悩みに寄り添った対処法を提示できるといいですね。気をつけてほしいのは、柳原選手がよかった薬がほかの選手にも合うとは限らないということです。だから競輪の特性をよく知ったうえで、自分に合ったものは何かを提示してくれる、相談できる方がいるといいと思います。柳原選手のような実績のある選手がこうして発信していくことで、これから変わっていくと思いますね。