父から受けた性虐待、母に救い求めるも… 奈落の底に突き落とされた女性
女性は10年余にわたり、父から性虐待を受けた。一番味方になってほしかった母にSOSを出したが、助けてもらえなかった。何度も「死にたい」と思った。それでも、両親に思いをぶつけ、同じように苦しむ人とつながることで、生きている。父に依存する母に期待することもあきらめた。 忌まわしい過去と対峙しながら、自分らしく歩もうとする女性の足跡をたどった。【西本紗保美】 【グラフ】若者への性暴力、現場で多いのは…
「儀式」と思って我慢
香川県の美容師、宮本ゆかりさん(53)は、会社員の父と専業主婦の母の間に生まれた。 最も古い記憶は5歳の頃、父とのじゃんけんだ。勝つとおやつをくれた。負けると下腹部をなめられた。「お母さんに言ってはいけないよ」と告げられた。 小学生になると、海や山で裸の写真を撮られた。父は「子どもの裸はけがれがなくてきれいだから」とシャッターをきり、母は「撮ってもらいなさい」と言って止めなかった。 数年たつと寝ている際に体を触られるようになった。気持ち悪い。伸びてくる手をはねのけたかったが、だまって従えば、いつも怖い父は優しくなる。「儀式」と思って我慢した。
「終わったことだから忘れなさい」
中学2年生の性教育の授業で、男女の体の仕組みを知った。父の自分への行為を理解し、怒りが湧いた。 「やめて」 初めて抵抗した。それでも父の行為はやまなかったが、怒鳴り声を上げて意思を示すと、性虐待は止まった。それまで拒否する態度を取れなかった自分の存在を汚いと感じ、「死にたい、消えたい」との気持ちがあふれた。母に意を決して、苦しみを打ち明けた。すると、予想もしない言葉が返ってきた。 「お父さんは『ゆかりから、してきた』と言っている」 「もう終わったことだから忘れなさい」 「お父さんはあなたを愛している。表現の仕方を間違ってしまったのよ」 更に、こうたたみ掛けられた。 「この事が知られたら、お父さんが捕まって、ゆかりも学校に行けなくなる。誰にも、絶対に、言ってはだめ」 奈落の底へ突き落とされたゆかりさんは、「もうどうでもいい」と思うようになった。