indigo la Endツアー「藍衆」総括 かつてない進化を遂げたライブバンドとしての現在地
4人の集合体としてのインディゴ
僕が観に行ったのはツアー24本目の東京・NHKホール。同会場でインディゴがライブをするのは2015年の「ナツヨのマジック」ツアー以来、約9年ぶりだったという。あいにくの天候で、雨のにおいがする渋谷の街を歩いて会場に到着すると、ライブは『哀愁演劇』の1曲目でもある「カンナ」でスタートした。川谷と長田カーティスによるアルペジオで始まるこの曲は、日本武道館公演の1曲目でひさびさに演奏されたインディーズ時代の楽曲「sweet spider」を彷彿とさせるもの。メジャーデビュー以前のインディゴの音楽性は、端的にいえば「歌ものポストロック」であり、長田のアルペジオはその象徴で、それは同時にスピッツへの敬愛も示していた。 しかし、2曲目の「夜風とハヤブサ」がファンキーなフュージョン、3曲目の「ラッパーの涙」がジャジーヒップホップであるように、メジャーデビュー以降のインディゴは川谷のリスナー的感性で海外のトレンドとも歩調を合わせ、音楽性を更新していった。最初期メンバーであり、川谷と音楽体験をともにしている長田のギターも徐々にアプローチが変わり、かつては「得意ではない」と話していたカッティングはもはや楽曲の軸を担っていて、原田知世への提供曲のセルフカバーである「ヴァイオレット」をはじめ、トム・ミッシュ以降のネオソウルギターも実にスムースで心地いい。 『哀愁演劇』のクリーントーンを生かしたギターワークは現在進行形のネオソウルギターと、ルーツにあるポストロック的な感性が融合した印象で、それは2010年代の海外におけるエモリバイバルを経て、ここ日本でもライブハウスにエモ~ポストロック系の若手バンドが増えている現状とのリンクを感じさせる。昨年キタニタツヤが発表したコラボEP『LOVE:AMPLIFIED』で、Eve、NEE、ヨルシカのsuisとともにインディゴが迎えられたのは、キタニにとってポストロック系のバンドがルーツのひとつとして大きいことを示し、彼は今年cinema staff主催の「OOPARTS」にも出演していた。2010年代のロックフェスの盛り上がりの一方で、構築的な世界観を追求してきたエモ~ポストロック系のオルタナバンドは現在活躍するボカロ出身のアーティストにも間違いなく影響を与えていて、それは今後より目に見える形で顕在化していくのではないかと思う。 現在のメンバーの中で長田の次に加入した後鳥亮介は万能型のベーシストで、スラップを効かせてグルーヴを作り上げたり、強烈な歪みでオルタナ感を演出したり、シンプルなルート弾きで歌や他の楽器を引き立てたりと、曲ごとの最適解を見出し、バンドをしっかりと支えている。かと思えば、「名前は片想い」では誰よりも大きなアクションでオーディエンスにクラップを促したり、「瞳のアドリブ」では長田とともにステージ前方まで出て行ったりと、ライブではムードメーカー的な役割を担っていることも見逃せない。メンバー最年長らしく一歩引いて全体を見ながらも、ときに最前へと出て行くこともできるその立ち位置は、彼が敬愛する亀田誠治の東京事変での立ち位置にも通じるものがあると言えるかもしれない。 2015年に加入し、バンドにとって最後のピースとなった佐藤栄太郎のドラムはもはやインディゴにとって不可欠なもの。後鳥同様に基本的に何でもできて、手数の多いロックドラムも、16分の細やかなプレイも、ヒップホップ的なループの気持ちよさも作り出せるが、あくまでアンサンブルの中で生きる演奏をしている印象。その上で、DJとしても活動しているがゆえのミニマルな感性はバンドのドラマーとして希有なもので、Everything In Its Right Placeなフレージングの美しさは絶品だ。一曲の中でBPMを倍にとり、メロウなミドルバラードに繊細な4つ打ちでダンスフィールを注入する「チューリップ」や、「リファレンスはABBAとメトロノミー」という着眼点からしてユニークな「名前は片想い」のオリジナリティはぜひライブで体感してほしい。 この日の本編ラストで演奏されたのは、「夏夜のマジック」と「インディゴラブストーリー」。「夏夜のマジック」は冒頭でも触れた通りバンドにとっての最重要曲のひとつだが、この曲が長く演奏され続けているのは川谷以外のメンバー3人にそれぞれの見せ場があるからかもしれない。2番のAメロでベース残しになる場面では後鳥と川谷が向かい合ってリズムを取り、間奏では「ギター、長田カーティス」という紹介から長田がメロディアスなソロを弾き、アウトロでは川谷が栄太郎を煽ってアグレッシブなプレイを促すこの曲は、4人の集合体としてのインディゴを象徴する一曲でもある。「インディゴラブストーリー」は川谷と長田のカッティングから始まり、歌が始まるとアルペジオになり、最後にもう一度カッティングで締め括られるという特異な構成が唯一無二。個人的に、インディゴのライブのラストはこの曲が一番しっくり来る。