【軽自動車業界大研究】もうダサいとは言わせない!「混沌から抜け出す各社の秘策」
「タント」や「ムーヴ」など数々の人気車種を世に送り出し、長きにわたって軽自動車業界を牽引してきたダイハツにとって、昨年発覚した認証試験における不正は大ブレーキとなった。 【画像】王者の自滅で激変!?軽自動車業界「最新勢力図」はコチラ…! 「過去34年間で、200件近い不正が行われていたことが明らかになり、今年1月26日には、とくに悪質な不正行為が確認された3車種について、国土交通省から最も重い『型式指定取り消し』の処分を受けました。これにより、ダイハツは新車製造を停止する事態に。現在も全面再開の目途は立っていません」(業界紙記者) それでも――軽自動車人気は衰えていない。’90年代に20%台半ばで推移していた自動車保有台数における軽自動車の比率は、’05年に30%を突破し、昨年には40.3%を記録。物価高や実質賃金の低下が消費者の財布を締め付ける中、低価格で小回りの利く軽自動車は庶民の足として貴重な役割を果たしているのだ。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏は、軽自動車の普及に若い世代が一役買っていると分析する。 「今の20~30代の中で、『軽自動車に乗っている=恥ずかしい』と考える人は少ない。カーシェアの拡大などによって、スポーツカーや高級セダンを所有することにこだわらなくなってきているのです。巷では″若者の車離れ″が叫ばれていますが、車にステイタスを求める若者が減ったという印象が強い。現在申し込みできる大阪万博特別仕様ナンバープレートは、白地に黄色い枠のデザインで、軽自動車特有の『黄色ナンバー』を避けることができる。購入をためらわせていた見栄がなくなったのだから、手の届きやすい軽自動車が支持されているのも頷けます」 今も続く軽自動車の人気に火をつけたのは、遡ること約半世紀、’79年に発売されたスズキの初代「アルト」なのだという。新車価格47万円という衝撃的な安さが話題を呼んだ。 「当時、自家用車は庶民の足ではなく贅沢品だとされていたため、購入時に車両価格の15.5%の物品税が課せられていました。スズキはこの税制に目をつけ、物品税が非課税となる″商用車″として売り出すことで、超破格の値段を実現できたのです」(株式アナリストの鈴木一之氏) ◆スズキ帝国が誕生か? 販売台数ランキング2位の「スペーシア」、3位の「ハスラー」、5位の「ワゴンR」など多数のヒット車種を擁するスズキは昨年、不正で失速したダイハツを3年ぶりに抜いて軽乗用車新車販売台数で1位に輝いた。ライバルの失速を機に、新たな業界の覇者として、さらに勢力を拡大することが予想される。 「マーケティング戦略に長(た)けているのがスズキの強み。スペーシアに芦田愛菜(19)を、アルトに波瑠(32)を起用するなど、他社よりもCM攻勢を多く仕掛けている印象です。ももいろクローバーZはスズキの様々な車種のCMに出演しており、『モノノフ』の中にはももクロを応援するためにスズキの車を選ぶツワモノもいるようです」(前出・業界紙記者) 軽自動車業界は長らくスズキとダイハツの2強がしのぎを削ってきたが、’11年に強力なライバルが出現する。ホンダが、空前のヒット商品を生み出したのだ。現在販売台数1位の「N-BOX」である。 「スズキやダイハツは、安さを武器にヒット車を生み出してきましたが、ハンドリングや乗り心地の面ではどうしても普通車に劣っていた。ホンダはアイルトン・セナやアラン・プロスト(68)が活躍していた当時のホンダ黄金時代の礎を築いたF1エンジン担当エンジニアがN-BOXを開発。他の車種に比べて運転性能が格段に向上し、普通車に近い感覚で快適に運転できるようになったのです。 ただし、よりよい乗り心地を実現するために細部のパーツまでこだわっており、原価率はかなり高め。たくさん売っても利益があまり出ないのがデメリットです。N-BOXに客が偏り、『N-WGN』など他の車種があまり売れていないのも、ホンダの課題でしょう」(自動車ジャーナリストの桃田健史氏) N-BOXは’18年、軽自動車として初めて衝突安全性能評価と予防安全性能評価の両方で最高評価を獲得。車種によってはフルモデルチェンジでデザインが大きく変わることもあるが、初代からデザインをあまり変えていないのも、ファンから長らく愛され続ける理由なのだという。乗り心地と安全性で販売台数トップの座を不動のものにしていたのだが、それでもホンダ本体が業界トップに躍り出るための切り札とはならなかった。 「昨年、N-BOXで使用されているデンソー製の燃料ポンプに不備が発見され、7月には鳥取道で悲惨な死亡事故まで起こってしまった。これをきっかけに全世界で1600万台という途方もない数の全数リコールという判断に至りました。ホンダに落ち度はないのですが、気の毒な状況に立たされています」(前出・加藤氏) ダイハツ、スズキ、ホンダが三つ巴の戦を繰り広げる中、「ルークス」や「デイズ」を持つ日産と、「デリカミニ」や「タウンボックス」を持つ三菱は共闘して立ち向かう道を選んだ。 「’11年、両者は軽自動車事業のための合弁会社『NMKV』を設立しました。日産と三菱は、どちらもEVの大量生産に世界的にもかなり早いタイミングで参入した企業です。日産のEVである『リーフ』の知見と、三菱のEVである『アイ・ミーブ』の知見を活かし、共に新たなEVを開発することが目的でした。商品企画はそれぞれで行い、製造は三菱が所有する岡山県の水島工場で行うという取り決めのもと、日産は『サクラ』を、三菱は『eKクロスEV』を生み出すことに成功。この2台は兄弟車なんです。現状ではサクラばかりが目立っているのが少し気の毒ですが……」(前出・桃田氏) 他にも、マツダがスズキからOEM(メーカーが他企業の依頼で製品を代わりに製造すること)供給を受けて「ワゴンR」の姉妹車「フレア」を販売するなど、業界の覇権を狙うライバルが続々と登場。軽自動車業界はまさに戦国時代の様相を呈している。 「ダイハツの親会社は世界一の自動車メーカーであるトヨタです。すでに国交省の確認を得て、生産再開された車種も増えています。スズキなどに勢力拡大を許しましたが、じきに信頼を取り戻すでしょう」(前出・加藤氏) 王者の急ブレーキによってもたらされた混沌から、アクセル全開で抜け出すのははたしてどの企業だろうか。 『FRIDAY』2024年3月1・8日号より
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