大谷翔平の「ホームランかぶと」、制作会社は釣りざおメーカーから異例の転身 親子3代で「日本文化」守り抜く
だが、1990年代ごろから注文は少しずつ減少している。かぶとやよろいは、耐用年数が長く破損などを原因とした新規購入は少ない。また、全国各地で祭りの開催が減り、新型コロナ禍によるイベント自粛の影響も受けた。 そういった厳しい時代背景があるからこそ、智隆さんは職人の育成と、良い甲冑を作ることにこだわってきた。智隆さんは2019年に父親から社長を引き継いだ。当時は職人同士で意見が合わないこともあり、社内でグループに分かれることもあったという。だが「楽しい職場にしたい」という思いから、どういう考えで仕事に取り組んでいるのか職人と議論を重ねた。現在は約30人の職人をまとめる。 顧客からの要望に沿い、安全に配慮した甲冑も多く手がける。素材をアルミや紙に代えて軽量化したり、かぶとの正面に付ける飾りの角を丸めたりすることで、けがが発生しにくいようにした。智隆さんは「祖父のころは黙っていても注文がきた。でも今はすごくシビアになっている」と現状を語る。
▽大谷効果で注文4割増 丸武産業に驚きのニュースが飛び込んできたのは今年4月。大谷選手の通訳を務める水原一平さんから、横浜市にある甲冑販売の専門店「サムライストア」にかぶとの問い合わせがあった。「ホームランのパフォーマンスに使用したい」という内容だった。 サムライストアの担当者が丸武産業製の在庫があるのを確認し、米国に発送。大谷選手の活躍の度にテレビに映り、一躍「話題のかぶと」となった。大谷選手の映像を見たお客からの問い合わせが増え、丸武産業への注文は4割近く伸びたという。智隆さんは「とても似合っているし、かぶってもらってありがたい」と喜ぶ。 智隆さんは伝統の継承を掲げる。1990年に甲冑を展示し、来場者が着用もできる施設を薩摩川内市にオープン。約4千坪の敷地は本格庭園さながらで、城もあれば橋もかかり、江戸時代にタイムスリップしたような景色が広がる。 入場無料で、市内の観光施設としてにぎわう。話題を聞きつけ、宮崎県から訪れた70代の男性は「どれも手がかかっていてすごい。もっと有名になってもいいんじゃないか」と驚く。
智隆さんは「特殊な業種は続けていくことが難しい。甲冑の伝統を守り続けていくことが自分の使命だと思っている。販売するだけではなく、着用してもらうことで良さを広げていきたい」と話した。