「困難は好転へのスイッチ」デザイナー安野ともこさんがコロナ禍で見出した活路とは
美しい空気をまとう先輩たちをたずね、その素敵が育まれた軌跡や物語を聞く連載「生き方がスタイルになる。素敵を更新しつづけるひと」。今回はスタイリストとして幅広く活躍しながら、ジュエリーブランド「CASUCA」のデザイナーとしても知られる安野ともこさんに話を伺った 【写真】安野ともこさんがデザインしたジュエリー
困難は好転へのスイッチ、笑顔で前へ
安野さんはジュエリーブランド「CASUCA」をターニングポイントに、2016年には下着ブランド「AROMATIQUE CASUCA(アロマティック カスカ)」をスタート。ブラジャーやキャミソールのアジャスターが洋服のシルエットに響かない、スタイリストならではの視点でカップ付きキャミソールを構築した。 その下着がさらに進化を遂げ、2023年春に「CASUCA HADA(カスカ アーダ)」として新たに幕開けた。100%オーガニックコットンを用い、より通気性の優れたモールドカップは“裸より楽”というコンセプトを実現。
そんなふうに側からは、順風満帆に自分らしい表現を重ねているように見える安野さんだが、「実際は傷だらけです」と一笑する。その傷の一つは、世界中が見えない壁に閉ざされたコロナ禍である。 多くの人と同じく、店舗の経営が逼迫。加えて、2020年に舞台衣裳の制作で縫い子としてサポートしてくれた若手の女性スタッフが、コロナ禍の煽りで解雇や採用をキャンセルされるという現状に心を痛めた。 「もっともっと創作をしたい」という彼女たちの声に耳を傾け、過去にスタイリングや舞台で使用した衣裳や素材を再構築したリボーン・クチュールのブランドを作ることを閃く。「閃いてしまうと居ても立ってもいられない」と、ほどなくして2021年に、ファッションデザイナーの石黒望さんと共に「CASUCA CiRculo(カスカ シルクロ)」を立ち上げる。 「捨てられずにいた洋服や衣裳の数々が、自由に形を変えて最後の最後まで輝く。単なるサスティナブルというだけでなく、“私たちは生きている限り諦めたりせず、それぞれの人生を謳歌する”というメッセージを、生まれ変わった洋服たちに込めたかった」という。 さらに、見る人の気持ちを引き上げたいという思いから、衣裳を作るだけにとどまらずコレクションのショーを映像で配信。夫で写真家の伊島薫さん、ミュージシャンの梅津和時さん率いる「Pletra Nera」、個性豊かなモデルたちが集結した。CIRCULOとは円環を意味するスペイン語、「やるからには打ち上げ花火のように、とことん楽しもう」という全員の思いが、まさに円陣を組んだかのようにエモーショナルな映像へと仕上がった。