啓発活動むなしく…根強く残るハンセン病への「偏見差別」 90歳の元患者が語り部を続ける理由【岡山】
岡山放送
ハンセン病への理解を求めて、瀬戸内市の国立療養所の90歳の入所者が、語り部を続けています。未だ社会に根強く残るハンセン病への偏見や差別・・・。語り続ける男性の言葉に耳を傾けます。 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「人権なんてない、動物よりも、まだ下だったかもしれない、そのような扱いを受けてきたのがハンセン病」 瀬戸内市のハンセン病療養所、長島愛生園の入所者で自治会長を務める中尾伸治さんです。中学生の時、国の誤った隔離政策で強制収容されました。 ふるさとの奈良を離れ76年、中尾さんは90歳になりました。県が毎年行う啓発活動の語り部として学校などに出向き、自らの体験や思いを語ってきました。 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「兄が言いにくそうに「娘ができた。娘が大きくなるまで家に帰らんといてくれ」と言われた。やっぱり病気が怖い、家族を守るという姿勢を兄は持った。それ以後、私は自分の生まれた家には行っていない」 ハンセン病患者を隔離する法律「らい予防法」は、1996年に撤廃されました。国は、元患者たちに謝罪し、偏見・差別の解消に取り組むことを約束したのです。あれから20年余り。偏見・差別は解消されているのでしょうか。 国は2023年に初めて、意識調査を実施。24年3月、その結果が公表されました。 ハンセン病元患者の家族と自分の家族が結婚することに抵抗感を示した人が2割を超えるなど、「ハンセン病に関する知識は、社会に十分には浸透しておらず、偏見・差別は現存し、依然として深刻な状況にあることがうかがえた」としています。また、ハンセン病について学習経験がある人の方が抵抗感を示す割合が高かったことも分かりました。 (ハンセン病問題に詳しい歴史学者 藤野豊さん) 「意識調査は非常に衝撃的で、今までの人権啓発では駄目なんだと、根本的に変えなければならないことを強く迫ってくるような内容」 偏見・差別解消に向けて対策を話し合う岡山県の協議会で、2024年の夏、意識調査の結果が報告されました。 (岡山県の担当者) 「啓発活動の内容の検証、やり方がどうなのかを当然、(検証する)必要があると思う」 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「ハンセン病というものを知らない人が増えてきた、目にすることがないので説明が難しくなってきた。いつまでも偏見差別があるとういうことを生み出した元があるはずだから、元を何とか見つけて、皆さんに分かりやすい説明ができるようになったらいい」 どうしたら分かってもらえるのか。中尾さんは、悩みながら語り部を続けています。 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「(Q:体調どうですか?)あきません。この間、一晩病棟に入った」 「(Q、なぜそこまで(語り部を)?)やっぱり知ってほしいから」 「ほんならよろしゅう」 *移動の車内 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「生で聞いてもらう方が分かってもらえるような気がして」 *総社西中学校 車いすで体育館に (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「皆さん、ご覧のように私の顔に後遺症が残っている。手がこう曲がっている。これはハンセン病による後遺症。病気は治っているので普通通り生活はできるが、やっぱりこの顔面が変わっている、手が曲がっていることで、まだハンセン病だと、ごく普通に言われる」 療養所には、ハンセン病患者は一人もいません。日本で発病する人もほとんどいません。差別されるいわれもなく怖い病気ではないことを、中尾さんは自らの顔や手をしっかり見せて、理解してもらおうとしているのです。 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「私たちは障害者です。他の障害がある人たちと私たちは同じような障害です。だから一緒に仲間に入れてほしいな」 (生徒は…) 「本当は知られたくないだろうが、(手を)わざわざ見せるということは、やっぱり私たちにちゃんとハンセン病のことを知ってもらって、これから差別がなくなってほしいという気持ちが強いからだと思う」 「中尾さんに話してもらったことを家族や周りの人に話して、たくさんの人に正しい知識を知ってもらいたい」 (長島愛生園入所者自治会 中尾伸治会長) 「機会があればまたしゃべっていきたい、伝えていきたいと思います。黙っていたら流れてしまうから」 全国の入所者の平均年齢は88.3歳。残された時間は多くはありません。
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