仕事の先送りをやめたいなら、先に仕事の順番を決めてしまえばいい。(滝川徹 時短コンサルタント)
■︎タスクリストなしで仕事をする3つのデメリット
「上から順番に処理する」ことのメリットを説明するためにここでは逆に、上から順番に処理するタスクリストを使わないとどんなデメリットが生じるのか。話していこう。 デメリットは次の3点になる。 (1)認知リソースをムダに消費する (2)冷静な判断ができなくなる (3)先送りしやすくなる 一つひとつ説明していこう。 (1)認知リソースをムダに消費する 意外かもしれないが、次にどのタスクに取り組むか意思決定するだけでも認知リソース(≒いわゆる意思力のようなもの)は消費される。 リストに10個のタスクが順不同に書き出されているとする。ひとつのタスクを終えるたびに「次はどれに取り組もうか」と取捨選択する際も、考える分、頭を使うはずだ。ここでも我々は認知リソースを消費しているのだ。 どのタスクに取り組むか意思決定するのに、1回ならたいして認知リソースを消費しないかもしれない。だが1日10回、20回も意思決定していればそれなりに認知リソースを消費する。 我々は日々の生活において意識する・しないにかかわらず、さまざまな意思決定を行っている。アップル社の創業者スティーブ・ジョブズやフェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグが、毎日の服装を同じスタイルで統一して日々の決断つまり意思決定の頻度を減らしたと言われているのは有名な話だ。 「上から順番に処理する」とルール化してしまえば、タスクAに取り組んだ後に次はどのタスクに取り組むかなどと考える余地がなくなる。その結果、認知リソースを消費せずにどんどん仕事に取り組んでいけるようになる。 認知リソースは非常に貴重な資源だ。これをムダ使いするメリットはひとつもない。「上から順番に処理する」タスクリストを使って、認知リソースを節約しよう。 (2)冷静な判断ができなくなる 先にも触れたが、日々仕事に忙殺されている状態では人は冷静な判断をすることが難しい。 たとえば仕事が多すぎるため取りこぼしがないようにTODOリストに今日やるべきA~Eまで5つのタスクを順不同に書き出しているとする。今は午前10時。認知リソースが比較的豊富にある状態だ。 難敵のタスクBに集中して取り組もうと思った矢先、取引先から電話がかかってきた。先方の上司同席で1週間後にプレゼンをしてほしいと依頼される。ここで君が冷静なら電話を切ったあと、本来取り組もうとしていたタスクBに着手しはじめるだろう。 だが、ただでさえ抱えている業務が多いなかTODOリストにさらに新しい作業が加わった。その事態に焦りが生じる。焦りは冷静な判断力を奪う。判断力が低下してしまうと、目の前のやるべきタスクではなく新たに出現したタスクに「ひとまず今取引先から依頼されたプレゼンの準備に取り組もう」と考えてしまうのだ。 そうして気がつけば夕方になる。この時間帯になると認知リソースはほとんど残っていない。ここからタスクBに取り組もうと思っても、もう遅い。君は「タスクBは明日、集中して取り組むか」と考える。結果本来やるべきだったタスクBに取り組めずに1日を終えることになる。 このように、心に余裕のない状態では人は冷静な判断ができなくなり、安易な選択をしてしまいがちだ。これを避けるためには迷いが生じないように「上から順番に処理する」ルールにのっとる必要がある。 この話が次の(3)の「先送りしやすくなる」の話につながる。 (3)先送りしやすくなる 人がある行動を取ろうとするとき「やるかやらないか」の選択肢、つまり「迷い」があるとその行動は先送りされる可能性が高まる。この話は逆に「なぜ人は締め切りギリギリになると、仕事にとりかかれるのか」を考えるとわかりやすい。 たとえば1時間後にはじまる会議で使う資料をまだ作っていないとする。こんなギリギリの状態なら、君は資料作りを先送りしようなどとは微塵も考えず、資料作成にすぐにとりかかるはずだ。なぜか。 それは「今」資料作成に着手しなければ間に合わないからだ。このタイミングで君には資料作成に「今」取り組むか、「後」で取り組むかの選択肢がない。仕事を放棄しない限り、そのタスクを先送りするという選択肢が生まれない。だからこそ君は、確実に資料作成に着手することができる。 このことからわかるのは、人は「今やるか、後でやるか」の選択の余地がなければ仕事を先送りしないということだ。「上から順番に処理する」タスクリストはこうした人の習性を利用して、先送りのリスクを極小化するものだ。 リスト通りに上から順番にこなしていくとルール化することで、選択といった「思考」の入りこむ余地をなくす。ここがポイントだ。なぜなら思考の入りこむ余地があるからこそ、人には迷いが生じ、先送りが起きやすくなるからだ。 さまざまな思考の中には「今は疲れてるし、どうしようかな」という迷いも含まれる。こうした迷いが生まれ、選択肢が生じた時点で「負け」だ。しかも次のタスクが難解なものであれば、かなりの確率で先送りするハメになるだろう。 これはそこに「迷い」が生まれたからだ。迷いが生じて安易な選択をしてしまった経験は誰にでもあるはずだ。ロボットのようにルールにのっとり、迷いや選択肢の余地を自分自身に与えないことでどんどん仕事を進めていけるようになるというわけだ。