高橋ヨシキが映画『デューン 砂の惑星PART2』と『12日の殺人』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 超大作SFアドベンチャー、待望の第2弾が公開中!&前作『悪なき殺人』で話題を呼んだ監督の新作サスペンススリラー! * * * 【写真】『12日の殺人』のレビューにも注目! 『デューン 砂の惑星PART2』 評点:★4点(5点満点) 単純だが斬新なアイディアが世界観を豊かにする 若きデヴィッド・リンチが監督した『デューン/砂の惑星』(1984年)が、劇場公開にあたって大幅な短縮を余儀なくされたことはよく知られている(当初は4時間あったものが最終的に2時間17分に切り詰められた)。 それについて、以前プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスに訊ねたところ「長いバージョンは本当に素晴らしかった。仕方のないことだったとはいえリンチ君には悪いことをした」と、きわめて正直に悔悟の念をにじませていたのが忘れられない。 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は2作品で約5時間半という上映時間を存分に使えてラッキーだが、にもかかわらず後半の駆け足な印象はどこかリンチ版に似てしまっている。 バロック的で絢爛豪華な世界を構築したリンチ版に対し、ずっとモダンでミニマルな未来像で差別化を図ったことは新たなチャレンジとして一定の評価はされるべきだろう。 40年の間に進化した特殊効果の差も圧倒的で、ごく単純だが斬新なアイディア、特に惑星ギエディ・プライムの天空に炸裂する「液状の花火」などが2作目の世界観を豊かなものにしているのは間違いない。 本作のヒットで3作目が作られるのを期待して待ちたいと思う。 STORY:砂の惑星デューンを舞台にした戦い――ハルコンネン家の陰謀で一族を滅ぼされたアトレイデス家の後継者ポールは、救世主として民を率いる。だが、ハルコンネン家の次期男爵フェイドがデューンの新たな支配者として送り込まれる。 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリンほか上映時間:166分 全国公開中 『12日の殺人』 評点:★4点(5点満点) ‟マンガ的"な物語を信じるということ ドミニク・モル監督の前作『悪なき殺人』は手の込んだ細密なパズルのようで、かつ「偶然」がもたらすやりきれなさが心にずっしりと残る見事な作品だった。 一方、本作は物事がパズルのように「組み合わさらない」ことを描いて秀逸だが、前作もそれが「パズル」として機能するのは映画の叙述がもたらす印象であって、不幸の連鎖の中央に誰かの意思があったわけではない。 夜道で突然ガソリンをかけられ、生きたまま焼き殺された若い女性をめぐる本作の物語は『ツイン・ピークス』にも似て、「ミステリー」の先の闇はどんどん深まるばかりである(『ツイン・ピークス』に先行するデヴィッド・リンチ監督作『ブルー・ベルベット』に対する非常に慎み深いオマージュがあったりもする)。 死んだ女性の親友が涙を目に浮かべて警察に答える場面がある。「彼女がいろんな人と寝ていたから何だというのか。本人のことを何も聞かず、なぜ寝た相手のことばかり知りたがるのか」と。 現実そのものをえぐり取る、突き刺さるようなセリフである。犯罪被害に遭った女性がほとんど常に、どこか本人に「落ち度」があったかのように言われる「男の世界」とは一体何なのだろうか。 STORY:10月12日の夜、女子大生クララが焼死体で発見。刑事ヨアンとマルソーは容疑者となりうるクララの周辺人物に聞き込みをするが、男たちは全員クララと関係を持っていた。捜査が行き詰まる中、ヨアンは事件の闇へとのみ込まれていく。 監督:ドミニク・モル出演:バスティアン・ブイヨン、ブーリ・ランネールほか上映時間:114分 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中