ジョブズやマスクのようなカリスマ?原爆の父「オッペンハイマー」の人物像 映画への批判に“後継”物理学者「賛否で蓋をすべきではない」
■オッペンハイマーはジョブズやマスクのような“カリスマ”だった?
野村氏は、オッペンハイマーはアインシュタインのような超一流ではないとするものの、現代のスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような「カリスマ性」、統率したり資金を集めたりする「オーガナイズ能力」、実現困難なものを形にする「実行力」を評価しているという。 「一流の物理学者であることは確かだが、エルヴィン・シュレーディンガーやヴェルナー・ハイゼンベルク、ニールス・ボーアなど、ヨーロッパに綺羅星のごとくいた人たちに続く感じではない。ただ、科学への貢献の仕方はいろいろあって、彼は周りを巻き込んでチームを作り、どこにでも行って完成までもっていくような人。そういうカリスマ性がはっきり映画からは出ているし、伝記なんかを読んでも書かれている」
アメリカでのイメージについて、パックンは「野村先生のお話しどおり、頼まれたすごい仕事を成し遂げた人。知名度はあるが、下の名前はアメリカ人の8割ぐらいが答えられないだろう。原爆を作った後、水素爆弾の開発に反対したために政府からは干された。それで下げられた評判はまだ戻っていないと思う」と述べる。 野村氏は「オッペンハイマーはセキュリティ・クリアランスが剥奪され、機密情報にアクセスできなくなった。しかし今世紀に入って、“あれは間違いだった”とエネルギー庁長官が言っている。カリスマ性のある人はいろんな毀誉褒貶、いきさつがある」とした。
■当時は原爆、今は量子コンピュータが開発の対象に?
原爆開発に巨額の資金を投じて最初に覇権を取ろうとしていたように、現代は「量子コンピュータ」開発がその対象となっているという。今のPCの約1億倍の高速処理が可能とされる次世代のコンピュータで、新薬開発のスピードアップや、暗号解読の即時化につながるという。アメリカ、中国、ドイツ、フランスなどで1000億円以上のプロジェクトも始まっている。 野村氏は「開発にものすごくしのぎを削っている。爆発的な計算力があるので、おそらく世の中を完全に変えられるもの。創薬は動物で実験しているわけだが、コンピュータ上で計算し、“この病気は遺伝子にこういうエラーがある。こういう物質を入れたら治る”というのを見つけてデザインしてくれる、という世の中が来るかもしれない。ただ、何に使えるのか、何が良くなるか、危険だとわかっていれば止めたのに、ということがわからないまま進むところが研究ではけっこうある。それを使って他人を出し抜いたりと、結局は人間同士の戦いになる気がしなくもない」と危惧する。 では、技術開発はどうあるべきか。「作るのは科学者で、決めるのは政治家だという考えもあるが、そこは完全に切り離されてはいけない。原爆は、ユダヤ人虐殺を行っていたドイツが開発している、というイメージがあったわけで、そこでやめるかというとまた難しい。自分たちがやっていることが結果どういう可能性を生むのか、意思決定者に情報を知らせるところまではやるべきだと思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)