「生きるのがつらく毎日が苦痛…」多くのシニアが予備軍「老後うつ」が認知症よりも恐ろしい理由
「最近、『老後うつ』(老人性うつ)が急増しています。『うつ』は年齢に関係なく発症する心の不調ですが、厚生労働省によると、65歳以上のうつ病有病率は13.5%に達するそうです。超高齢化が進みシニア人口の割合がどんどん多くなる日本で、『老後うつ』という問題が身近に感じられるようになった(顕在化された)といえるでしょう」 【画像】すごい…「老後うつ」とは無縁の暮らし方、とは? こう話すのは、精神科医で保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆先生だ。保坂先生は先だって『精神科医だから知っている「老後うつ」とは無縁の暮らし方』(主婦と生活社)を上梓し、他の著作でも老後についての考察を発信している。 保坂先生によると、うつは生きるのがつらくなって日々を過ごすことが苦痛になるだけでなく、その状態を放置することで、引きこもりがちになって足腰が弱まり、さらに認知症や寝たきりになってしまう悪循環に陥る危険性をもはらんでいるという。実際に「認知症よりうつが怖い」という高齢者も多いようだ。 かくいう筆者も50歳を過ぎ、立派な老後予備軍である。老後うつとは聞き捨てならない。老後という時期でいえば、まず認知症が問題になりそうだが、老後うつとはどのようなものだろうか。 「老後うつの症状には、認知症に似た症状があり、また同時に発症していることもあるため、認知症と間違われるケースがあります。認知症は一般的に物忘れなどの記憶障害から始まり、ゆっくり進行していきます。 一方の老後うつは、ストレスなどをきっかけに、不眠や食欲不振など身体的な不調と、不安感、意欲の低下などが起こります。老後うつの場合は、意識もはっきりして体も動くのに、『頭の働きが悪くなった』と自覚される方が多いので、認知症との鑑別が必要になってきます。老後うつでは、生きるのがつらくて幸福感が得られないという自覚が強い点が、認知症とは異なってきます」 筆者は今でも頭の働きが覚束なく、幸福感も得られていないが……。一般論として、そもそもシニアはうつになりやすいのだろうか。 「定年後に社会とのつながりを失う、パートナーや配偶者や友人の死、子どもの独立などをきっかけに、うつ状態になるシニアがいます。年齢を重ねると、体力や記憶力が低下するなど、若い頃にできたことができなくなります。そのような変化は自然なことなのですが、それに抗い、『できなくなった』という事実ばかりに目を向けて落ち込み、自信をなくしがちです。 また、現在は、ひとり暮らしのシニアが増えていますが、その中には『ひとり暮らし=孤独』と思い込み、強い孤独感を持つ人がいます。これらの悩み……喪失感や孤独感は、程度の差はあれ、シニアに共通のものだと思いますが、そこで、どうなるかわからない将来に強い不安を抱き、心を悩ませるタイプが“老後うつ”になりがちなのです」 老後の状況として、挙げられたものは多くのシニアが持つもの。とするならば、多くのシニアが“老後うつ”予備軍と言えるのかもしれない。 また、保坂先生によると“老後うつ”を疑うべき兆候には、ちょっとしたことでイライラする、怒りっぽくなることが挙げられるという。人は年をとると考え方が固定され、柔軟性がなくなるために我が強くなる。これは他人を理解し、自分を理解してもらおうとする努力が煩わしくなり、怒りの制御が難しくなる『感情の老化』であり、注意が必要だというのだ。でも頑固になってしまうなんて、シニアであれば誰でも自覚があること。もっと分かりやすいものはないだろうか。 「家の中が片づいているかどうかは、心の安定の目安になります。足の踏み場もないくらい散らかしている人は、頭や心の中も整理できない状態と見ていいでしょう。こういう人が老後うつを発症させる可能性はかなりあると考えられます」 筆者の家は散らかり放題……。もうすでに罹っている可能性すらありそうだ。では、シニアになれば当たり前に直面する悩みにどのように向き合うかが、“老後うつ”になるか・ならならないかの分かれ道で、それは気の持ちよう……ということなのだろうか。 「そうですね。人生には『どうにもならないこともあるさ』と考えることも必要です。そして、『どうにもならないこと』に対しては達観し、『どうにかなること』に努力を向けるのが、心豊かに暮らすための秘訣だと思います。 たとえば、『いい人』をやめて自分らしく振る舞うとか、経済的には、自分の財布のサイズに合わせて暮らすなど、肩の力を抜いて、ゆるゆると頑張らない生き方をするといいでしょう。 また、『ひとりはさびしい』と訴えるシニアが多いのですが、まず、ひとりで行動してみませんか。慣れてしまえば、ひとりの心地よさが分かり、『ひとりでも大丈夫』という感覚が身についていくはずです」 他の予防としては、 ●全身に酸素をいきわたらせる深呼吸 ●散歩や体操などの軽い運動 ●好きな音楽を聴き、映画を観る ●マッサージや指圧を受ける など、体のバランス、心のバランスのために気を配るといいそうだ。不安の原因などは、心の持ち方をちょっと変えてみるだけで解消されることもあるそうだが、本当に“老後うつ”の可能性が考えられる場合は、心療内科やメンタルクリニックなどに相談するべきだという。早期発見で適切な治療を受ければ重症化を防げる病気なのだ。 「『定年後はのんびり暮らそう』と思っていたけれど、しばらくすると時間を持て余し、『また仕事をしたい』というシニアがたくさんいます。これは、人間は無為に日々を過ごすよりも、『何かの役に立ちたい』『誰かに必要とされたい』『誰かとつながっていたい』と望むものだからでしょう」 筆者は50を過ぎてなお老後の貯えもなく、恐らくよりシニアになっても働き続けなくてはいけないのは確定している状況だ。その時点でうつだったりもするのだが……。 「言われるように、経済的な理由で働き続けるという人もいますが、どちらにしても、仕事ができるのは、あなたが必要とされているからです。これは地域活動やボランティア活動でも同じでしょう。『自分は必要とされている』、『何かの役に立っている』という気持ちは希望につながるのです」 「蓄えがないから」と嘆くのではなく、筆者も「必要とされている」、「役に立っている」という希望を胸に、老後うつとは無縁に働きたいと思います! 『精神科医だから知っている「老後うつ」とは無縁の暮らし方』(保坂隆著/主婦と生活社)
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