『アンチヒーロー』野村萬斎の身震いする警告 不正に手を染めた父を堀田真由は救えるか
真相に近づくにつれて濃くなる監視の気配
真相に近づくにつれて、刻々と国家権力による監視の気配が濃くなるのが不気味である。冒頭のシーンで、伊達原が発した「全てが思い通りになると思うな」は、明墨への警告として理解できる。倉田との関係を認めない伊達原が、わざわざ呼び出してまで釘を刺したのは、よほど12年前の事件に触れられたくないのだろう。明墨が検事を辞め、倉田から笑顔が消えた理由、そして桃瀬礼子(吹石一恵)の死につながる事実は、ドラマの後半で明かされると思われる。 倉田は不正に手を染めており、弁解の余地はないのだが、肉親の情と職業上の義務の間で引き裂かれる姿は、悲劇の主人公そのものだった。倉田が守ろうとしたものは、権力にとって不都合な真実であるに違いない。一人の人間が自身の一生を棒に振り、良心を殺してまで守らなければならないものが、この世界にあるのだろうか。最後まで真実を口にしなかった父を、紫ノ宮は救いたいと望んだだろう。その願いを「君にははっきりとした意思がある。それをぶつければいい。弁護士として。娘として」と明墨は肯定した。 第5話ラストでは、ドラマ序盤で接点があった緋山(岩田剛典)が再登場した。闇が深いというありきたりな言葉を使うなら、人間の深層と社会の病理に根差した本作は、底の見えない漆黒の闇だ。けれども、かすかに希望が感じられるのはなぜだろうか。目を凝らすと、黒で塗りつぶされた空間に、ぎりぎり見通せるくらいの濃淡があることがわかる。暗夜をまっすぐ見すえる視線と、その視線の持ち主である明墨が投げかけるものを、どう受け止めるかは私たち次第だ。
石河コウヘイ