清水草一の私的なイタリアンGT考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」
試乗後私は、とりあえず328からF355へ買い換えることを決めた!
中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出しシリーズ。今回は2009年10月号に掲載された清水草一がフェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモSのイタリアンGT3台に試乗した、抱腹絶倒リポートを取り上げる。まずはその1台目、「大乗フェラーリ教」開祖を名乗る清水草一は、新世代フェラーリたるカリフォルニアをどう見たのか? 【写真5枚】フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモSの写真を見る ◆7年後に買うことになる! 本音を言えば、私はイタリア車にGT性を求めていない。GT性とは、女性で言えば「すこし愛して、長ーく愛して」であって、一瞬で人生を燃焼し尽くすような熱いイタリアン・スポーツには、求めてはいけない性格だからだ。 中でもフェラーリはその最たるもの。たとえマラネロの本社が「これはGTだ」と主張するモデルでも、実際にGTとして使う人などいやしない。なぜなら、フェラーリは走ると減るクルマだからである。走ると減るのだから、どうせ減るなら徹底的に、真っ白い灰になるまで燃焼させたいじゃないか。 フェラーリでグランド・ツーリングに出るなんて、エリカ様に炊事洗濯をやらせるようなもの。美の浪費以外の何物でもない。と言いつつ自分のフェラーリでソウルまで走ったこともあるのだが、それはフェラーリの間違った使い方である。 しかし今度のカリフォルニアは違う。これはGTだ。華麗なるイタリアンGTそのものだ。ただし、決して「すこし愛して、長ーく愛して」ではない。かなり激しく、しかし割と長く愛せる、新たなフェラーリの世界を切り開いたGTだ。 とにかく身構えずに乗れる。着座位置が高く視界がいい。ボディが適度にコンパクトで取り回しがいい。サスペンションが驚くほどしなやかでストローク量が大きい。クイックでステアリング・インフォメーションに富んだターンイン、FRらしい素直でコントローラブルな操縦性。これらは、フェラーリに人生を賭ける破滅願望系の人間にとっては、本来すべてマイナス評価の対象だが、カリフォルニアの場合はすべてがプラス評価になってしまう。なぜなら、このクルマは中途半端じゃなく、徹底的だからだ。 いいとこ取りのヴァリオ・ルーフを装備した、超軟派なオープン・モデル。ボディもかなり重い。しかもオープン時よりクローズド時の方がスタイルもいいから、「たまには屋根を開けなくちゃ」という強迫観念も生まれない。何にも縛られず、要求されず、ただ優雅に楽しむだけ。そこには甘い生活だけがある。あのV8ミドシップ・フェラーリが持つビリビリ感はまったくない。 しかし、フェラーリはフェラーリ。エンジンは常に本気だ。4.3リッターV8はフェラーリとして初めて直噴化され、吸気・排気の双方に可変バルタイ機構も装備している。フェラーリ・エンジンらしく、高貴なブリッピング一発で目頭が熱くなり、レッドまでブチ回せば魂は激しく燃焼するが、軽く流すのもいい。ここが重要だ。V8ミドシップの場合、軽く流すのは美の浪費だが、カリフォルニアならひとつの愛し方。それが新鮮だ。 ミッションはフェラーリ初のデュアルクラッチ式なので、従来のF1マチック系と違い一瞬のクラッチ断続感がない分、F1気分は薄い。代わりに低速域でのギクシャク感はほぼ皆無、タイムラグも当然皆無だ。 カリフォルニアは、ワインディングを飛ばすのもいい。ミドシップ・フェラーリはサスペンションのストローク量が少なすぎて、ワインディングを走っても結局楽しいのは音だけだったりするが、カリフォルニアは違う。シューマッハー様がチューニングしたというストローク量たっぷりのしなやかなサスペンションは、ゲルマン製GTのごとく、路面の凹凸をものともせず、しなやかに突っ走ってくれる。外から見るとビックリするくらいロールしてるが、だからこそワインディングを甘く軽やかに駆け抜けることができる。 乗っていて直感した。私はいずれこのクルマを買うことになるだろうと。そして、この華麗なイタリアンGTが演出するステキな生活を目指すだろう。それは恐らく7年後。それまではV8ミドシップで魂を燃焼させることにしよう。試乗後私は、とりあえず328からF355へ買い換えることを決めた。 文=清水草一 写真=望月浩彦 ◆「フェラーリ以外でもフェラーリ・エンジンを楽しみたい」という清水草一が次に試乗したのは、マセラティにも供給されている4.7リッターV8を搭載したアルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネだった! 「危険だ、危険すぎるGTだ!」と叫んだその試乗記は【清水草一の私的なイタリアンGT考 その2】で! (ENGINE2009年10月号)
ENGINE編集部
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