合計特殊出生率1.20へ低下:関連法案可決も少子化対策の実効性にはなお疑問
既婚者への支援が中心であることも問題
また、政府の新たな少子化対策は既婚者への支援が中心となっている。しかし実際には、少子化の進展は、既に見たような婚姻率の低下によるところも大きい。2023年の婚姻数は、47.5万組と90年ぶりに50万組を割り込み、前年比では6.0%の大幅減少となった。2000年代には出生数はまだ年間120万人程度あったが、その世代が結婚適齢期を過ぎる2030年頃には、出生数がさらに大幅に減少を始める可能性がある。 児童手当の支給年齢の引き上げ、所得制限の撤廃、多子世帯への加算は、それぞれ子どもを持つことのインセティブを一定程度高める方向に働くだろう。しかし、その効果がコストに見合ったものになるかについては、十分に検討すべきだ。そもそも、所得制限の撤廃は適切ではないように思われる。高額所得世帯が新たに児童手当を受け取っても、それが子どもを持つことのインセティブを高める効果は低いためだ。 さらに、人口減少対策としては、外国人材の積極的な受け入れも重要な選択肢となるだろう。外国人が労働供給、需要の両面から日本の潜在成長率を押し上げるとの期待が企業の間で高まれば、企業は中長期の成長率見通しを引き上げ、それに対応して設備投資を拡大させるだろう。それは、設備の増加と生産性の向上を通じて、潜在成長率をさらに押し上げることになるはずだ。
少子化は「静かなる有事」
少子化の進展は、日本経済の成長力を低下させ、国民の生活水準の改善を妨げる。また、年金・医療など社会保障制度の安定性・持続性も大きく揺るがしてしまう。この点から、少子化は、「静かなる有事」とも呼ばれている。経済、社会の安定の観点から、少子化対策は政府の優先課題の一つであることは疑いがない。人口が急速に減少を続ければ、将来の労働力が減少していく一方、消費者の数も減少していくことになる。つまり、供給面、需要面の双方から日本経済の将来は先細りとなっていく。人口が減少する中でも、労働生産性上昇率が急速に高まればそうした事態は回避できるが、それは簡単ではない。 人口減少によって日本経済が先行き成長する有望な市場ではないと考えれば、企業は国内での設備投資に慎重になる。生産活動に投入する機械などの設備投資が増加しなければ、新たな設備や技術を利用して労働者が生産性を大きく引き上げることは難しい。このように、人口減少は労働生産性上昇率や日本経済が成長する力を示す潜在成長率を低下させてしまうのである。 成立した少子化対策関連法の実効性には疑問が残ることから、同法の成立で少子化への取り組みを一段落させることなく、政府および社会は、引き続き強い危機感を持って、少子化対策の取り組みを加速させていくことが求められる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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