ついに『紅白』司会へ到達 有吉弘行が各局の作り手から求められる理由と理想の“司会像”
「仲間思い」「腰が低い」のバランス
有吉は『紅白歌合戦』司会の就任コメントで、「一番、尊敬している内村光良さんが以前、紅白の司会をしていたのを見ていて、いつか内村さんのようになりたいと目標にしていたので、信じられないです」と語っていた。わざわざ内村の名前を出し、さらに「今まで司会をされた方の中で一番小ぶりだと思いますが、すごく光栄だし、嬉しいです」と謙虚に語ったのは、内村への恩返しであるとともに、自身の成果に感慨深いところがあったのかもしれない。 『有吉の壁』や『オールスター後夜祭』(TBS)などで見せる若手・中堅芸人の良さを引き出す進行は、ジャンルを超えて子役から俳優、アーティスト、アスリート、文化人、大御所まで拡大。「毒舌のイメージがあっても、けっきょく笑顔で仲間思い」「どんなに売れても絶対に勘違いしない腰の低さ」が制作サイドの安心材料となっている。 もちろん、持ち味である毒舌がベースの番組もしっかり確保。より多くの人々が見るゴールデンタイムでは『マツコ&有吉 かりそめ天国』、さらに深夜帯では『有吉クイズ』『ジロジロ有吉』、特番では『オールスター後夜祭』、冠ラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN)などで毒舌を見せている。 そもそも有吉は『IPPONグランプリ』で2度も優勝したようにトップクラスのセンスを持つ芸人だけに「毒のさじ加減を番組や出演者によって変える」ことなどたやすいのだろう。さらに、もしたまたま毒のさじ加減を間違えて行き過ぎた発言をしたとしても、有吉には猿岩石でのブレイク後に「どん底を経験した」という免罪符がある。 ■■今なお使える「どん底」の免罪符 すごいのは20年程度も前のイメージやエピソードをいまだに免罪符として使えること。実際、頂点から底辺までの転落を目の当たりにした人が多く、有吉自身もそれを自虐ネタとして多用しないため使い減りせず、現在まで効力を発揮している。 例えば、今年の『紅白歌合戦』で有吉が多少のミスをしても、フミヤと「白い雲のように」を歌うことで頂点から底辺に落ちたイメージが思い浮かんで緩和されるのではないか。そんな簡単には揺るがない免罪符の存在も、各局が有吉を起用しやすい理由の1つとなっている。「パワーがあるのに、視聴者にパワーを感じられにくい」ため、ハラスメントと騒がれるリスクは少ない。 『有吉くんの正直さんぽ』で一般人とふれ合う際に見せる礼儀正しさ、『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』で日直アシスタント・田牧そらに対する優しさ、その他でも妻を大切にする姿勢などを含め、さりげないところでほどよく好感度を得ているところも、起用される理由の1つなのだろう。 とはいえ今なお、業界人やコアなファンの間では、『有吉クイズ』で見せる破天荒かつ狂気の一面を称える声も少なくない。かつて『内村プロデュース』で見せた猫男爵や『アメトーーク!』(テレ朝)で見せたあだ名芸などは封印されているが、これは裏を返せば「いつ再解禁することも可能」ということ。 有吉は来年5月31日で50歳の節目を迎えるが、このままMCとしての役割をまっとうしていくのか。それとも、いつか破天荒かつ狂気の芸人という一面を濃くするときが来るのか。そんな可能性を感じさせる奥行きも、有吉の魅力なのかもしれない。 ■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
木村隆志