『国史教科書』の問題点を市民団体指摘 「『慰安婦』問題など歴史的な事実を無視」
全国各地で2025年度から使われる中学校教科書の候補が、図書館などで市民に向けて展示されているか、すでに終わっている時期である。今後、自治体の中での、どれを選択するかの議論に向けて、歴史教科書の問題などに取り組んできた「子どもと教科書全国ネット21」など四つの市民団体が6月25日、「加害の歴史を否定する教科書を採択するな」と題した共同記者会見を東京・永田町の衆議院第一議員会館で開いた。 「加害の歴史を否定する」教科書とは、明治天皇の玄孫で作家の竹田恒泰氏が代表を務める「令和書籍」の歴史教科書『国史教科書』である。文部科学省の検定で過去3回にわたり不合格だったが今回初めて合格が追加的に認められた。
「天皇」を軸に記述
『国史教科書』というタイトルも異色であるが、令和書籍は「『国史教科書』の特徴」の一つとして「朝廷を重視した構成」と題して次のように挙げている。 「日本には建国以来『朝廷』が存在し、為政者たちは朝廷との関係性により、それぞれ特色のある政権を構築してきました。『国史教科書』は全ての時代につき『天皇』を軸に記述して国家としての連続性を意識させるとともに、為政者たちが天皇あるいは朝廷とどのような関係を築くことで権力を掌握したか、その権力構造が分かるように記述しました」 この説明だけでも『国史教科書』が、これまでの歴史教科書とは際立った違いを持つことがわかる。 これに対して、「子どもと教科書全国ネット21」代表委員の鈴木敏夫さんは「世界史と日本史を学ぶ教科書の名称が『国史教科書』であり、内容において、日本国憲法になっても、歴史的な事実を無視した、戦前の国定教科書と見まがう記述がある教科書で良いのか」と指摘している。 「歴史的な事実を無視した」とされる一例として挙げているのが、歴代自民党政府が継承するとしてきた河野談話の否定につながる記述である。「蒸し返された韓国の請求権」と題するコラムで、慰安婦問題について触れ、「しかし、日本軍が朝鮮の女性を強制連行した事実はなく、また彼女らは報酬をもらって働いていました。また、日本軍が彼女らを従軍記者や従軍看護婦のように『従軍』させ、戦場を連れまわした事実はありません」と述べている。文部科学省がこの表現を問題なく認めた、という事実がにわかに信じがたい。 また、沖縄戦の記述では、生徒の戦場動員を「志願というかたちで学徒隊に編入」と記述していることや、特攻隊員の戦死を「散華」と表現していること、集団自決(強制集団死)を「逃げ場を失って自決した民間人もいました」ととどめた記述に、沖縄で批判の声が高まっているようだ。 6月25日の記者会見に出席した坪川宏子さん(「慰安婦」問題解決オール連帯ネットワーク)は「慰安婦」問題の記載について、矢野秀喜さん(強制動員問題解決と過去清算のための共同行動)は日韓請求権協定について、寺川徹さん(沖縄戦の史実歪曲を許さず沖縄の真実を広める首都圏の会)は沖縄戦の記載について、それぞれ問題点を説明した。
佐藤和雄・ジャーナリスト