高橋ヨシキが映画『カラーパープル』と『ボーはおそれている』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! スピルバーグ監督の名作がミュージカル映画として復活&鬼才アリ・アスター監督の最新スリラー! * * * 【写真】『ボーはおそれている』のレビューにも注目! 『カラーパープル』 評点:★4点(5点満点) 「暗く、重い」だけに回収されない人生の豊かさ スティーヴン・スピルバーグ監督作品『カラーパープル』(1985年)の直接のリメイクではなく、その後ブロードウェイでミュージカル化されたもの(2005年)を映画化した作品である。 20世紀初頭のアメリカ南部に暮らす貧しいアフリカ系の生活を描いた「暗く、重い話」がミュージカルに? と違和感を覚えるかもしれないが、ミュージカルにしたことで本作は豊かさと「楽しさ」を獲得することに成功している。 「楽しさ」がしっかりと描けているのは特に重要なポイントで、たとえばLGBTQを主題にした映画やレイシズムを扱った映画が常に「暗く、重い」面ばかりを強調してきたことの弊害は昨今見直されつつある(重要なのは「なぜ彼らは常に〈不幸な存在〉として描かれなくてはならないのか?」という問いかけだ)。 スピルバーグ版はスピルバーグならではの映画的ケレンに満ちた作品ではあったが、そこにはやはり題材を「そういう風に描くべき」だという感覚が残っていた。ミュージカル映画にしたことで、本作は「暗く、重い面」だけに集約され得ない生の喜びをスクリーンに焼きつけてみせた。現代に通じる多くの問題を交錯させるやり方も実にスマートだ。 STORY:父に虐待され、10代で望まぬ結婚を強いられた女性セリーは、型破りな生き方の女性たちの出会いや交流を通して、自らの人生を切り開いていく。1985年のスティーブン・スピルバーグ監督の同名作をミュージカル映画化。 監督:ブリッツ・バザウーレ出演:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴほか 上映時間:141分 全国公開中 『ボーはおそれている』 評点:★2.5点(5点満点) ただ人を不幸にするだけの「ありもしないもの」 ありもしない神への恐怖や、ありもしない神の前に人間は誰もが罪深い存在である、という考え方は非常に不健康だし、みんなが楽しくハッピーに生きることを阻害する大きな要因である。 ありもしないものについては何とでも言えるので、「ありもしないものはとても凄すごいんだぞ!」「ありもしないものに叱られたらどうする」などと声高に叫ぶ宗教(特に一神教)のせいで、多くの人が日々をエンジョイできなくなり、不必要に申し訳ない気持ち(罪の意識)に囚とらわれて暗くつまらない人生を送ることになった。 主人公ボーが口癖のように「アイムソーリー、アイムソーリー」と繰り返すのは、まさに不必要な罪の意識にがんじがらめになっているからで、本作は「人はありもしないものの前にへりくだってアイムソーリー、アイムソーリーと言い続けるべし」という旧約聖書的な世界観に基づいたものだといえる。 しかし、恐怖と罪の意識にまみれた主人公の彷ほう徨こうを描く本作がブラックコメディとしてうまく機能していないのは、作品自体がありもしない神に成り代わって主人公を断罪する愉悦に浸っているかのように映るからだ。ハイパーな冒頭部分は面白かったのに残念である。 STORY:さっきまで電話で話していた母が突然、怪死したことを知った怖がりの男ボー。急いでアパートの玄関を出ると、外の日常は崩壊していた。次々と奇妙な出来事が起こる里帰りは、いつしかボーと世界を巻き込む壮大な物語へ......。 監督・脚本:アリ・アスター 出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアンほか上映時間:179分 2月16日(金)より全国公開予定