暗号資産交換業最大手バイナンスがマネロン対策違反で米政府に罰金支払い:暗号資産取引からのユーザー離れは進むか
マネロン対策を怠ったことでバイナンスは巨額の罰金を支払う
暗号資産(仮想通貨)交換業で世界最大手の「バイナンス」は11月21日に、マネロン(資金洗浄)防止規制に違反した罪を認め、43億ドル(約6,400億円)の罰金を支払うことで米当局と合意したと発表した。米政府による企業への罰金では過去最大規模だという。また創業者の趙長鵬(チャンポン・ジャオ)は、司法取引の一環として、最高経営責任者(CEO)の辞任を決めた。 暗号資産交換業者大手のFTXが2022年11月に経営破綻した後、バイナンスが暗号資産ビジネスを支配していた。しかしそれから僅か1年で、今度はバイナンス自身が苦境に立たされることになったのである。 米当局の捜査によって、バイナンスのマネロン検知・防止プログラムが有効に機能していなかったこと、マネロン対策を故意に怠りテロ組織の取引を許したこと、などが明らかとなった。それ以外にも、詐欺など法令違反の可能性がある10万件以上の取引を当局に報告していなかったという。 米司法省によると、バイナンスは、マネロン対策を目的とする「銀行秘密法」違反、無認可の送金事業の実施、安全保障や経済分野などで米国の脅威となる相手との商取引を禁じる「国際緊急経済権限法(IEEPA)」違反を認めたという。 また米司法省は、バイナンスが効果的なマネロン対策ブログラムを導入していなかったと指摘している。同社は、ユーザーが本人確認(KYC)情報を入力せずに口座を開設し、取引することを認めたという。 米国の制裁法は、米国民がイランなど包括的制裁の対象となっている国・地域の個人と取引することを禁じている。しかし同社は、米国民とイラン在住の個人との取引を防止するための措置を怠り、2018年1月から2022年5月までの間に、8億9,800万ドル(約1,300億円)以上の取引を意図的に行わせたという。
ハマスの暗号資産の資金洗浄、送金も許したか
バイナンスの顧客が、制裁を受けたロシアの銀行を利用しているという記事をウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が今年8月下旬に掲載した。これが、当局による同社への捜査が、世の中に広く明らかになるきっかけとなった。米司法省はバイナンスを、米国の対ロシア制裁違反の可能性に関連して調査している、とWSJは報じていた。 バイナンスが取引を許したテロ組織は、イスラム組織ハマスやアルカイダ、イスラム国(IS)などである。現在イスラエルと交戦中のハマスは、中東やアフリカで幅広く投資ビジネスなどを行い、その利益を活動資金に充てている。その際に、暗号資産を資金洗浄あるいは送金の手段にしていた、との見方がなされている。また同社は、米国が制裁対象国に指定するイランや北朝鮮などの個人と、米国の利用者が取引できる状態も放置していたという。 米証券取引委員会(SEC)は今年6月に、バイナンスUSが違法な証券取引所を運営しているとして提訴した。SECは、バイナンスが破綻したFTXのような詐欺の手法で米国の暗号資産を奪い取っているのではないか、との懸念を持っている。同社がプラットフォームに保管されている資産を管理するための裏口経路を持っている可能性があるとみて、その証拠をなお探しているという。 SECは、証券取引の観点からバイナンスUSを提訴したが、今回の司法省による対応は、事実上決済業務を担うバイナンスに対して、銀行と同様のマネロン対策を求めるものだ。そしてバイナンスはそれを受け入れたのである。