文學界新人賞・旗原理沙子さん 自費出版でブレイクスルー。「いつか小説家になるってわかってた」 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#13
小説家志望のライター・清繭子が、文芸作品の公募新人賞受賞者に歯噛みしながら突撃取材する。なぜこの人は小説家になれたのか、(そして、なぜ私はなれないのか)を探求し、“小説を書く”とは、“小説家になる”とは、に迫る。今回の「小説家になった人」は、「私は無人島」が第129回文學界新人賞に選ばれた旗原理沙子さん。18歳から応募を始め、“箸にも棒にもかからなかった”彼女が最終選考の常連になったきっかけは〈自費出版〉にあった――。 【画像】旗原理沙子さんフォトギャラリー
【あらすじ】
第129回文學界新人賞 受賞作「私は無人島」 占い師の月子は中学時代の友人・未希から相談を受ける。夫の弟にレイプされ、妊娠し、その両親から伝説の堕胎師・えじうにやってもらうならおろしてもいいと言われた、と。未希に代わり、えじうを探すことになった月子は、占いが示すある島へ渡り、老婆から堕胎に効く香草・ミレイジャクにまつわる民話を聞く。ミレイジャクを求めてさらに隣の島へ行こうとすると、未希をレイプした男が現れて――。
「小説」より「小説家」が先だった
文學界新人賞の結果が発表されると同時に、私のXには「旗原さん、おめでとう!」のつぶやきがあふれた。デビュー前にこんなに認知されている「旗原さん」とは、一体……? 前回取材した大原鉄平さんによると、旗原さんはこれまで落選した小説を文学フリマやAmazonのKDP(Kindle Direct Publishing:電子書籍の自費出版サービス)で販売し、その界隈では名の知られた存在らしい。 「大学生の頃から賞へ応募し続けていたのですが、落選ばかりで。友人がせっかくそんなに小説書いているんだから、出版してみたら? って勧めてくれたんです。電子書籍なら費用もかけずに簡単に出せるよってやり方をおしえてもらって。でも、実行するには自分の殻を破る必要がありました。それまで『賞をとって、プロになって、たくさんの人に読んでもらう』と思ってやってきたので、その前に世に出しちゃっていいのかなって。でも今までとやり方を変えないと、と思い切りました」 小説家を目指したきっかけは。 「子どもの頃から読書好きで、親や祖父母から『あなたは将来小説家になるよ』と言われて育ちました。小説を読む前に先に〈小説家〉という言葉に出会ったほど。小学校の卒業文集でもはっきりと『小説家になる』と書いていました。小学5年生の頃だったか、芥川龍之介の『蜜柑』を読んで、それが初めて純文学に触れた瞬間。知らない言葉は辞書で調べながら読んで、全然読み取れたわけではないけれど、世界が広がるのを感じて、小説ってすごい、と思いました」 作品を応募したのは9歳の時。児童文学だった。 「今思えば『幸福の王子』の丸パクリで、当然落選でした。中学に入り、『蜜柑』のような小説を書きたいと思ったけれど、全然書けず。高3の受験後、ようやく1000枚ほどの小説を初めて書き上げました」