甲状腺医療に関する研究成果、取り組みを3氏が報告―第24回隈病院甲状腺研究会リポート
第24回隈病院甲状腺研究会が2024年3月2日、神戸市内で開催され、医療従事者を中心に多くの参加者が集まりました。甲状腺医療を専門にする隈病院が、甲状腺に関するさまざまな研究成果、取り組みを報告する同研究会。今回は「成人期における先天性甲状腺機能低下症」「甲状腺細胞診の報告様式」「低リスク甲状腺微小乳頭癌(がん)に対する積極的経過観察」の3つの演題で発表が行われました。研究会当日の様子と、それぞれの発表内容をリポートします。
◇開会のあいさつ――院長 赤水尚史先生
はじめに、隈病院 院長の赤水尚史先生による開会のあいさつがありました。参加者への感謝を伝えるとともに、発表内容や座長を務める先生方を紹介しました。さらに、今春、竣工を迎えた増改築後の新たな隈病院について、映像とともに案内しました。
◇演題1「成人期における先天性甲状腺機能低下症のマネージメント~移行期医療を引き継ぐ側の立場から~」
最初の演者は隈病院 内科(現・内科医長)の久門真子先生です。座長は長野県立こども病院 内分泌代謝科副部長兼生命科学研究センター長 長崎啓祐先生が務めました。
先天性甲状腺機能低下症(CH)の多くは、新生児マススクリーニングでTSH(甲状腺刺激ホルモン)が高値であることをきっかけに、小児科で診断され治療が開始されます。当院は主に成人を対象に診療しているため、CHの初期治療に関わることはありません。しかし、すでに治療が開始された患者さんが精査に関する相談のために受診される例、治療継続のために受診される例、また成人期に初めてホルモン合成障害と診断される例など、CHに関わる症例は当院にも一定数存在します。 CHとは、胎生期あるいは周産期に生じる先天性の甲状腺ホルモン分泌不全です。この時期の甲状腺ホルモンの不足は、不可逆的な知能障害を引き起こす可能性があるため、速やかな発見とホルモン補充の開始が必要です。 小児を対象とする診療科と、当院のような成人を対象とする診療科では、患者さんとの関わり方や、扱う社会制度などさまざまな違いがあります。このような違いを踏まえて、いかにスムーズに小児期医療から成人期医療へとつなげていくかが移行期医療の最大の焦点になります。成人のCH診療においては、移行期の途中であることを自覚し、患者さんと医療従事者が十分なコミュニケーションを取りながら診療や必要な支援を行うことが重要です。 当院の診療実績をもとに、成人期のCH診療のポイントをいくつかご紹介します。甲状腺形成不全が原因のCHでは、FT3(甲状腺ホルモンの1つ)の値が相対的に低くなる傾向があります。冷えや浮腫、倦怠感など甲状腺機能低下症状の訴えがあれば、FT3を測定しTSHを抑制するとともにFT3を正常状態にコントロールすることで、症状が改善する可能性があります。また、原因の1つである甲状腺ホルモン合成障害が疑われる症例で、Goiter(甲状腺腫)の増大が見られる場合は、早期より甲状腺ホルモン剤の補充によるTSH抑制を行うことで、Goiter増大の抑制や、縮小が見られる症例もあるため、それにより手術を回避できる可能性があります。