友近、『ブギウギ』で緩急の“緩”を担う? スズ子を支える存在としての安心感
放送中の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)には、「お笑い」の世界に軸足を置く者たちが何人も出演している。なだぎ武、ジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介、メッセンジャーの黒田有ーー。そしてこの並びに、新たに友近が加わる(のちに麒麟の田村裕も)。じつにユニークな布陣である。 【写真】妊娠したことを小雪に知られたと聞かされる近藤芳正、黒田有、趣里 とくにニューフェイスである友近は、俳優としてかなりの出演作を誇る演技派だ。ヒロイン・スズ子(趣里)にとって、彼女の役割とはどのようなものになるのだろうか。 なだぎ武が演じているのは、スズ子の実家だった銭湯「はな湯」の常連客である占い師。ジャルジャルのふたりが演じているのは、スズ子がまだ「梅丸少女歌劇団(USK)」に所属していた頃に仲間たちと通った洋食屋「フクロウ」のスタッフ。メッセンジャーの黒田が演じているのはご存知のとおり、スズ子の愛する愛助(水上恒司)の家業である村山興業の東京支社長。そしてこの村山興業が実在する吉本興業をモチーフにしているであろうことは、いまさら書くことまでもないだろう。 ここに並べた4人の芸人には、共通点がある。それは吉本興業所属の芸人だということ。もちろん、友近もだ(田村裕も吉本所属だが、出演の順番的にここでは言及しない)。 ひとくちに「お笑い芸人」といっても、さまざまなタイプがある。漫才・漫談を行う者や、コントを得意とする者、ほとんど特技と呼べるような無二の一発芸を展開する者など、じつに多様。基本的にはもちろん、観客を笑わせるのが仕事である。そんな彼ら彼女らが映画やドラマに登場するとき、だいたいの場合においてコメディリリーフを担うことが多い。あるいはその特異な存在感を武器にして、観客の注意を引く役割を務めることも。職業俳優ではなく、「お笑い芸人」だからこそできることだ。 しかし中には、ふだんのお笑いジャンルとは関係なく、目を見張るような演技を作中で披露する者がいる。そのひとりが友近だ。 彼女が朝ドラに登場するのはこれが3度目。2006年から2007年にかけて放送された『芋たこなんきん』、2015年から2016年にかけて放送された『あさが来た』、そして『ブギウギ』である。 演じるのは東看護師というキャラクター。妊娠中でありながらもステージに立とうとするスズ子を全力でサポートする人物だ。この役どころからして、視聴者から笑いを取ろうとする存在ではないはず。とはいえ本作は全体的に明るいいっぽうで、シリアスな瞬間がたびたび訪れる。そういった際に、この『ブギウギ』が持つ緩急の“緩”を先頭に立って担うことは予想できるだろう。 友近といえば、さまざまなタイプの人物をデフォルメして演じる単身でのコントを得意としている。誰もが一度はテレビでその姿を目にしたことがあるのではないだろうか。彼女が演じてきたありとあらゆるキャラクターたちは、年齢も性別も関係ない。つい笑ってしまいながらも、「たしかにこんな人いる!」というのが素直な反応だ。つまり彼女は何かを演じることに優れているわけだ。 だが、映画やドラマでそれらしくキャラクターを演じるのではなく、役の人生を生きなければならない場合、「たしかにこんな人いる!」では成立しない。 そこで友近の俳優としてのキャリアに目を向けてみる。『中学聖日記』(TBS系)では、中学教師である女性主人公のかつての指導者であり、彼女が心を開くことのできる人物の役に。『プロミス・シンデレラ』(TBS系)では思いがけず旅館で働くことになった主人公にとって、厳しくも頼れる上司を演じていた。この2作において友近が求められていたものは、芸人的なものではなく、完全に演技者に求められるものだった。こんなポジションで変に笑いを取ろうなどとしては、作品全体が歪んでしまう。彼女の純粋な俳優としての力が、両作を支えていた。 『ブギウギ』の東看護師も、ここに並ぶものなのではないだろうか。とくに現在の本作は、スズ子を取り巻く者たちは男性ばかりだ。第9弾の新キャスト発表時に制作統括の福岡利武は「東看護師の友近さんは、身重なスズ子に一番近くで寄り添ってくれています。存在感と愛情たっぷりの芝居です」と述べている。スズ子を支える新たな存在として、友近ならば私たち視聴者も安心なのではないだろうか。
折田侑駿