『THANATOS~タナトス~』相葉雅紀×早見沙織×大塚明夫が作り上げた朗読劇の新たな形
room NB(ソニーミュージックグループ)が、劇作家・演出家の藤沢文翁と立ち上げた音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」。その新たなプロジェクトとなる「READING HIGH noir」の第2回公演『THANATOS~タナトス~』が、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて10月19日、20日の2日間4公演にわたって上演された。 【写真を見る】音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」による『THANATOS~タナトス~』公演の様子 本公演は、同月13日、14日に東京・イイノホールで上演された『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』の姉妹作。2020年には梅原裕一郎、早見沙織、鈴木達央・福山潤(Wキャスト)ら豪華キャストにて上演され、大盛況のうちに終わった。約4年ぶりとなる今回は、嵐のメンバーで、歌手、司会者、俳優業と幅広いジャンルで活躍する相葉雅紀が朗読劇に初挑戦し、天才心理学者のエドムント・アインハルト役、2020年以来となる早見は物語の鍵を握る、記憶を失った女性、ルナ・ワルポール役、そして、大塚明夫は事件の解決に奔走するデイヴィッド・スウェイン警部役を演じた。 本作の舞台は1899年、霧の都・ロンドン。大富豪アーサー・ポールが所有していた豪華な船が、みるも無残な漂流船として発見された。船内に残っていた唯一の生存者ルナに話を聞くも、当時の記憶を失っており、捜査は難航していた。この事件は「幽霊船事件」として、ロンドン中をその噂が駆け巡ることに。デイヴィッドは天才心理学者として有名なエドムントに協力を依頼し、かつてない事件に挑む。 会場がしんと静まり返る中、大きな雷鳴が響き渡ると、冒頭から物語の核心に迫る重要なシーンから始まり、観客を物語の世界へと一気に引き込む。序盤から緩急のある演技を見せたのが相葉。デイヴィッドとの出会いのシーンでは、エドムントの存在を知りながらも、無知を装って近づいてきたデイヴィッドに対して、「あなたは私が何者か知っている」と全てを見透かしたような淡々とした口ぶりで追い詰めていく。ルナが自らを守るために作り上げた、もう一つの人格であるマルスに対しては一転して語気を強め、感情をあらわにする。『和田家の男たち』(2021年)、『ひとりぼっち ー人と人をつなぐ愛の物語ー』(2023年)といった作品で、誠実な人柄がにじみ出た優しい演技を見せていたのが印象に残っているが、本作でもそれは健在。冷静沈着な性格だが、人間味ある優しさも持ち合わせたエドムントを相葉なりに解釈し、愛情深く向き合っているのが伝わってきた。 ルナを演じた早見は、しっとりとした声色で作品の世界観に優しく寄り添いつつも、エドムントから「アーサーはなぜ殺されたのか?」と問いかけられると、顔を歪めながら、これまで閉ざされていた心の扉が強引に開いてしまうような、感情むき出しの演技で会場の雰囲気をガラッと変えた。エドムントが催眠を解こうとすると、ルナの中からもう一人の人格であるマルスが現れる。すると、早見は不気味な笑いを浮かべ、「この記憶に手を出すな」と別人のような口ぶりで2人に抵抗する。早見の美しさと恐怖を兼ね備えた二面性のある演技を通して、観客を魅了していった。 大塚は、深みのある演技でデイヴィッドを演じ、相葉との見事な掛け合いで事件を解決に導いた。第1幕では明かされなかったデイヴィッドの過去が第2幕では明かされるが、ルナに対する後悔の念、そして恋心を抱く大塚の言葉一つひとつの重みがどっしりとのしかかってくる。クライマックスでの大塚の演技はお見事。うまく言葉を言えずに涙をこらえつつも、心の奥底に秘めたルナへの思いを伝えた芝居は圧巻の一言であった。 キャスト陣の演技に加えて、ピアニストの榊原大とチェリストの村岡苑子による、世界観を彩る繊細かつダイナミックな音楽と、照明の色や当てる方向によって変わる布のドレープや幻想的なライティングといった舞台芸術も本作の魅力となっている。配信チケットはStagecrowdにて11月17日(日)21:30まで販売(視聴は同日23:59まで)されているので、見逃してしまった方や、もう一度見たい方はぜひ作品の世界観を映像で堪能してほしい。 取材・文=川崎龍也
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