これが真相か「アムロは鳥取出身」説 元サンライズの中の人に聞いてわかったこと
アムロは「日系人」じゃなくて「外国人」だった!
はたして本当にアムロの出身地は山陰(鳥取)なのでしょうか。 安彦さんは2022年のインタビューにて、『ガンダム』制作当時、富野監督と安彦さんの間でアムロは「外国人」という合意があったと語っています。その頃、ロボットアニメの主人公は日本人であることが絶対条件だったので、「今までにないキャラクター」として考え出されたのが「外国人」という設定だったのです。 ところが、それではスポンサーから突っ込まれる可能性がありました。そこで「故郷は鳥取県の日系二世ということにしよう」と考えたのだそうです(一迅社「Febri」 2022年12月19日)。ただし、これはあくまで言い訳のようなものであり、安彦さんや富野監督の中では「アムロは完全に外国人」でした。 アムロが外国人なら、『ORIGIN』特別編でハヤトに日本の神様について質問しているのも辻褄が合います。なおこの特別編ではアムロが鳥取砂丘で母との別れを思い出す場面があるものの、母と別れた場所が鳥取砂丘だとは明示されていませんでした。そういえば、鳥取でのトークショーでも富野監督は「アムロが山陰出身」とは明言していません。 「私の知る限り、ファースト(筆者注:TVシリーズ『機動戦士ガンダム』)の制作当時にはそのような設定はないはずです」 こう答えていただいたのは、1975年よりアニメ制作会社のサンライズ(現 バンダイナムコフィルムワークス)に所属していた作家の風間洋(河原よしえ)さんです。 「最終企画書レベルでは、ファースト時代は『アムロ・レイ』だけでなく、『ハヤト・コバヤシ』という名前すら、宇宙移民時代に出身国の特定は無意味、ということで、カタカナ表記で統一しています」(風間さん) 風間さんは「後は、観る側が好きに想像するのはご自由、というのが当時のスタンスです」とも答えてくださいました。 整理すると、アムロをはじめとした登場人物には出身国の設定がなく、富野監督と安彦さんの間に「アムロは日本人ではない(外国人)」という合意がありましたが、スポンサーに突っ込まれたときの言い訳として「故郷は鳥取県の日系二世」という裏設定(?)が生まれ、実際にアムロが故郷で母と再会する第13話は山陰(鳥取)をイメージして演出されました。 第13話の絵コンテに「サンイーン(山陰)」と指定されていたことや、富野監督による「実家はズバリ山陰地方」という説明がもとになり、後にさまざまなアニメ雑誌やムックで「山陰出身」と書かれたことで「アムロは山陰出身」という説が定着したのでしょう。 ガンダムの形式番号「RX-78」はTVシリーズ放送後に設定されたものだということは知られていますが、アムロが山陰出身というのも、そのような後付けの設定なのかもしれません。観る側が自由に想像を膨らませることができたからこそ『ガンダム』の世界は広がりました。こうやってアムロの出身地についてあれこれ考えるのも『ガンダム』の正しい楽しみ方なのでしょう。
大山くまお