鬼才・佐久間宣行が語る!「チームを動かし結果につなげるリーダーの在り方」とは?
テレビプロデューサーとして数々のヒット作を生み出している佐久間宣行氏。新著「ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方」には、意外にも“ネガティブ思考だからこそ”導きだされた、人生や仕事への向き合い方のヒントが詰まっている。常に結果を求められるリーダーとして心がけていることや、仕事に対する原動力について話を聞いた── 佐久間宣行さんの写真をもっと見る
ニッポンのエンタメ界を牽引し、八面六臂の活躍を見せる“佐久間P”こと佐久間宣行さん。間違いなく天才であり、鬼才であり奇才、である。芸人たちが“本気”を出す番組「ゴッドタン」は17年目、“普通のおじさん”ながら弁舌爽やかな芸人・タレントに混じってパーソナリティを務める「オールナイトニッポン0(ZERO)」は6年目に突入。退職してからもテレビ東京とは円満な関係を築きつつ、配信コンテンツも数多くヒットさせる。かと思えば、自身のYouTube「佐久間宣行のNOBROCK TV」は、登録者数210万人超え(2024年7月末現在)。 エンタメの大海原を縦横無尽に駆け巡ることができるのは、決して「非凡だから」だけじゃない。佐久間P、じつは大人になるまで「競争で負け知らず、挫折を味わったことがないスーパーエリート」ではなかった。メンタルの弱さ、仕事をしていくうえでの弱点や欠点……。ネガティブな自分に凹み、不安を抱えながら生きてきた”こっち側”の人間でもある。新刊「ごきげんになる技術」には、ネガティブだからこそ磨き上げられた、自分という軸の整え方と活かし方、さらにキャリアや人間関係をぐいっと上向きにさせる思考法と方法論が惜しみなく詰まっている。 T JAPANでは、あらゆる番組を統括し、数多くのコンテンツやチームを束ねるリーダーとしての在り方にフォーカスを当てて話を聞いた。 ──リーダーとしてご自身が心がけていることを教えてください。 佐久間: 本のタイトルにもあるように、僕は常に“ごきげん”でありたい。ごきげんと言うといつもニコニコしていて気持ちが弾んでいる状態、というイメージが思い浮かぶかもしれませんが、僕の中では少し違って“メンタルが安定していて、ブレない軸があるということ”。だから、ハレーションを起こしがちな思いつきや感情論で発言したりジャッジしたりすることは無いですし、エンタメという楽しいフィールドを荒らしたくないので、ハラスメントというダサい行為もしませんね。 ──そもそもリーダーに必要な資質や才能というものはあるのでしょうか? 佐久間: リーダーとしての在り方に、人としての資質や才能、魅力は関係ないんです。企業を一人で引っ張れるほどのカリスマ性があるか、または、人を見出す力や育成力が抜群に高く、育てた後輩らにすべてを任せられる人がいるのが理想だけど、そんなケースはごく稀。個人に頼ろうとすると、当人が永久に働き続けないといけないし、リーダーと部下との親密度によって共有事項に差が出るから、うまくいっているようで内部バランスが崩れていることが多い。企業側にとっても、実はリスクが大きいんです。 ──どの番組や企画でもリーダーになることが多い佐久間P。チームを率いるうえで意識していることはありますか? 佐久間: 最も大事なのは、きちんと言語化してチーム全員で共有すること。僕の場合、プロジェクトや企画を進める時は、常にそのチームが達成していることと、抱えている課題が何なのか? 間違っているかもしれないけれど、前提として「今現在、番組はこういう状態にあると思っていて、目指したいところはこの地点。こんな問題点もはらみつつ、あんな企画をやってみたいんだけど、どうだろう?」などと持ちかけてみる。 そうする理由としては、一般的にチームスタッフというポジションは、各論でしか認識しておらず、「今、自分たちはどんな状態なのか?」「何をして、どこへ向かえばいいのだろう?」と、そもそもの立脚点や目的を見失っていることが少なくないからです。 施策を進めるうえでもそう。例えば、プランAとプランBがあったとします。Aを選んだ理由はなぜか? 決定に至るまでのプロセスを、理由も含めて必ず説明します。言語化を怠ると、「リーダーの勘やセンスで決まったんだ……」と思われ、チームのモチベーションや団結力は一気に低下するし、再現性も低くなるんです。 ──言語化して共有したら、リーダーはチームをどのように率いればいいのですか? 佐久間: 言語化した内容がしっかり共有できていれば、チームのメンバーそれぞれが自走し始めます。リーダーは、明確な基準を持ったうえで、メンバーからの提案や意見にフラットな視点を持ち、ブレずにジャッジすること。3~6ヶ月程度で具体的な数字や結果が見えるので、それに従って仮説と検証を繰り返しながらチームを動かします。 もちろん成功することもあれば、そうじゃないことだってある。ただ、全員で価値観や目標点を共有できていると、たとえ失敗しても全員の経験値になる。つまり失敗が、価値あるものになるんです。 ──以前からこの思考法、スタイルなのですか? 佐久間: 僕が20代の頃は、命令や指示だけされて、何のために行うのか? 納得できる説明や回答をもらえないままひたすら暗闇を走らされる状況に疑問を感じていたので。チームをまとめるようになった30代前半からは実践していますね。 ちょっと余談になりますが、対面と、コロナ禍を経て格段に増えたリモート会議では大きく異なることがわかって。リモートの場合、関わっている人の気持ちを惹きつけるような進行をしないと、人数が多ければ多いほど実のある会議にならないと気がついて(苦笑)。 結論までが長いと、別の作業を始める人が多いので、最初に結論と問題提起のような話をします。何のための時間で、何のための説明なのかをはっきりさせると、聞く耳が一気に増えるな、と。人の心が離れやすいリモート会議を経験してから、より対面での会議も濃い時間にすることができるようになりましたね。 僕自身、コロナ禍以降のリモートでの会議経験を経て、それ以前は「(立場的にも年齢的にも上がってきたこともあり)僕の発言は聞いてくれるかな」とおごった面があったことにも気づけたのはよかったですね。 ──チーム内で価値観を言語化して共有するプロセスで、最も難しいと感じる部分は何ですか? 佐久間: メンバーそれぞれのアーカイブが違うことでしょうか。特にクリエイティブを作るうえでは、その齟齬が出がち。個人のアーカイブレベルは、初対面の時に探っておかないと大事故につながってしまうので、日常会話から「このトピックを落とし込むと、どう見える? どんな解釈をする?」と探ってみることも。トンチンカンなことを返してくると、「これに関するアーカイブは無いのかもな。では、どう説明したら理解しやすいだろうか?」を考えます。個人の資質や能力に合わせたアドバイスが必要になります。 難しい面もありますが、方向づけとモチベーションを上げていけば、みるみる仕事がデキるようになる人も。成長していく姿を見られるのはうれしいですよね。 ──佐久間Pの意見に、異論を唱える人はいますか? 佐久間: もちろん。むしろズレたほうがいいし、そのズレを面白がりたいと思っています。メモっておいて考えて、納得できるものであれば受け入れますね。 そもそも僕に限って言えば、クリエイティブ面に関わるチームを作るときは、コアなメンバーの中に、僕とはルーチンが違う人、(自分が携わってきた仕事や作品に誇りを持っていて)僕が手がけてきた作品を尊敬しすぎていない人など、異論を唱えそうな人や価値観が異なる人を、あえて引き入れるようにしています。 この考えに至ったのは、テレビ東京の局員だった30代半ば、チームを立ち上げるポジションに就いた頃。うまくいったプロジェクトとそうでもない企画を振り返ると、僕の意見に批評・批判できる人がいたほうが、番組が長く続いているから。ちなみに『ゴッドタン』がそれです。 幸い今は僕が考えた企画が主軸にあって、メンバーそれぞれの面白い要素を少しずつ取り入れた企画がうまくいっています。が、いずれは誰かが考えた企画を、僕の知見で面白くする時期も訪れるだろうから、そこは柔軟にと思いますね。 ──メンバー(後輩や部下)とは世代間ギャップもある。そんななかでビジネススキルを向上させ、なおかつモチベーションを保つのは、案外難しい。どんなサポートをされていますか? 佐久間: やる気を引き出すには、熱い精神論を説いても伝わりません。強要は逆効果です。まずひとつめは、プロジェクトに対して本気である、楽しんでいることを見せる。“大変な仕事の中にある面白さ・楽しさはこれだよ”とそれとなく伝えるようにしています。20代は特に準備や雑用など目に見えない仕事が多いから、その先にある”やりがいのある仕事”につながることを体感してもらうようにしています。 もうひとつはなぜ、このチームに参加しているのかを理解してもらう。僕自身、いつでもストロングポイントを説明できるようにはしていて、それを伝えると、本人が生かすべき能力や頑張る理由がわかるので、自走し始めます。 あと、いい結果は、会議やグループLINEで頻繁にシェアします。視聴率や視聴者数は誰でもチェックできるから、「先日出演してくれた芸人さん、番組きっかけで仕事が増えたらしいよ」など、僕にしか届きにくい情報などは特に。喜んでもらえるし、徐々にプロジェクトの風向きもよくなるんですよね。ということで、40代に入ってからは“ただただ人をホメるおじさん”と化しています(笑)。 ──長所を伸ばしてくれるリーダー、そうありたいものです。 佐久間: 最初に見つけてあげるべきは、メンバーそれぞれのストロングポイントの発掘だと思うのですが、魅力を台無しにするようなバイアスがある場合は、そこが発動しないようコントロールもしますね。 例えば、20代の若手ディレクターがいたとします。能力は非常に高いのに悲しいかな、コミュ力がない。こういうタイプって特に、芸人さんを始め演者さんから距離を置かれがちだし、最初は本気を出してもらえないことも。演者さんが決して嫌なヤツということじゃなく、衆目を集め、失敗したりスベる責任を負うのは彼ら。だからこそ一緒に仕事をする相手に対して慎重になるし、最初から全力を出せないのは当然ですよね。まずは打ち合わせに同行させて、「コイツ(若手ディレクター)の企画なんですよ」と説明を挟みつつ、実は面白いヤツだと刷り込ませる(笑)。何回か繰り返すうちに“寡黙だけど面白い”イメージができて信用が生まれ、双方が次のフェーズに行けるわけです。 ──チームといえど“個”なんですね。 佐久間: ですね。ただ“個”ではあるけれど、それを一人一人と向き合うと工数がかかりすぎるのも事実。なので今は、テレビでもYouTubeでも、仕事のノウハウや、僕が言語化した内容や進め方を知っていて”任せられるスタッフ”を配置しています。そのほうが僕だけの基準じゃない視点が加わって、面白さの幅が広がっていくし、人材も育つので。 ──仕事のノウハウ、人材や人脈を抱えてしまいたくはなりませんか? 佐久間: 仕事のモチベーションは何なのかを探ってみると、好きなバンドや劇団、俳優さんや芸人さん、スタッフたちが活躍している姿を見ること。僕と関わったことで、その後の仕事でプラスになったり、評価されるきっかけになるといいな、という気持ちが根底にあるんです。自分の好きな人に対する推し活みたいな感じでしょうか。推したい人、それが観られるコンテンツが増えれば、それだけ楽しめるエンタメも増える。つまり僕の人生が楽しくなるんですよ(笑)。 仕事ってつい抱えてしまいがち。僕もかつてはそうでしたし、仕事に熱心な人や、愛が強い人ほど、そうなる傾向にあると思うんです。だけど、手が痛くなるまでギュッと握り続けていると、勝負したい仕事が舞い込んできた時に全力でコミットできず、結果を残しにくいんですよね。 いい感じのタイミングで手放したり、任せたりすると、成長したスタッフが再び参加してくれてより面白いコンテンツを作ることができたり、ピンチの時に駆けつけてくれることも多い。すべて善意というよりは、短期的な感情や利益を優先せずに言動した結果、そのほうが見返りも大きかったし、巡り巡ってよかったなぁという経験を、たくさん味わったからだと思います。 佐久間Pは、いつだって(テンションは低めだけれど)安定していてフラット。ウェットじゃないけれど、ドライでもない。”負け知らずの勝ち組”ではなく、ある意味、かつての苦い経験を反面教師として、自分なりのリーダーとしてのあり方を見つけた。その新しいリーダーが今、本人が想像する以上の大きなうねりを作っている(余談だが、パーソナリティを務める番組は、「radiko」で聞かれたラジオ番組2023年の年間ランキングにおいて、並いる競合を抑え20代男性部門5位、30代男性部門3位にランクイン。面白いのはもちろん、“(下の世代のことも考えてくれる)信頼できる大人”というのも理由にあるようだ)。 新刊「ごきげんになる技術」には、仕事・人間関係のお悩み相談から、佐久間P流の“積極的ネガティブな仕事術”、“人生のアセスメントについて”など、真っ当であり実践的な81のメソッドを紹介。仕事を、ひいては人生を好転させるエッセンスがたっぷり詰まっている。 佐久間宣行(NOBUYUKI SAKUMA) 1975年生まれ、福島県出身。テレビプロデューサー、ディレクター、演出家、ラジオパーソナリティ、作家。『ゴッドタン』『トークサバイバー!1・2・3』『インシデンツ1・2』『LIGHTHOUSE』などのテレビ番組、配信作品を手がける。『オールナイトニッポン0(ZERO)』の最年長パーソナリティの他、バラエティ番組のMCとしても活躍。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術 ―僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(ダイヤモンド社)『ごきげんになる技術 キャリアも人間関係も好転する、ブレないメンタルの整え方』(集英社)など。YouTube チャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』は登録者数211万人を突破(2024 年7月末現在)。200万突破記念として、食べて呑んで語る『BSノブロック~新橋ヘロヘロ団』を開設。 BY YUKINO HIROSAWA