【ラグビー】過去と比べない。いい表情でいよう。帝京大主将、青木恵斗の変化。
全国大学選手権4連覇を目指す帝京大が、復調した。 開幕から日体大、青山学院大といずれも昨季の下位チーム(日体大はBから昇格)と対戦、67-6、40-5と連勝したが、納得感を得られずにいた。 特に2戦目の青山学院大戦は苦戦した。前半を14-5と接戦で終えると、ファイナルスコアを刻んだ後半25分以降も攻め込みながらスコアできず、そのままノーサイドを迎えた。 思うように敵陣に行けなかったり、敵陣深くに入っても簡単なミスを重ねていた。 消化不良を払拭したのは第3節、立教大戦だ。85-7と完勝した80分間は終始、帝京大のリズムでアタックを展開できた。 1対1のコンタクト、セットプレーで圧倒。SH李錦寿が正確なハイパントをあげれば、WTB森寛大らが空中戦を制す。自陣からも積極的に展開し、FWとBKが縦横無尽に動き回った。あらゆる形でトライを奪った。 就任3季目の相馬朋和監督は、試合後の会見で安堵の表情を浮かべた。 「開幕戦からなかなか難しい試合が続いてましたが、今日は帝京らしいプレーが随所に見られました。選手たちも少し満足感を得ることができたのではないかと感じています」 隣に座ったFL青木恵斗主将も喜びを語る。チームが復調できた理由に、自身の変化を挙げた。 「僕自身の表情が暗くなったり、僕自身のパフォーマンスが落ちれば、チームにどれだけ影響するのかを前の2試合で学びました。今日の試合では自分が帝京のスタンダードを示そうと考えていてました」 まず、プレーでは最前線で体を張った。 エッジを駆け抜けてオフロードパスでトライを演出したり、中央に現れれば堅いエリアに身を投じ続けた。後半の立ち上がりには味方のターンオーバーにいち早く反応、ギャップを突破してリードを広げるトライを挙げた。 ディフェンスでも奮闘。広い守備範囲でタックルに入り、味方の好タックルに反応してカウンターラックを決めた。 プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍だった。 味方のミスが起きても、意図的に柔らかい表情を保った。「常にいい表情、いい声かけを心がけた」という。 元NHKのアナウンサーで帝京大の特任准教授を務める森吉弘先生が、ラグビー部に開く特別講義、通称「森ゼミ」で学んだことを活かしたのだ。コミュニケーションスキルが主な講義内容である。 「『表情は(他人に)映る』と学びました。表情には2種あって、顔の表情だけでなく、声の表情もある。僕自身は気持ちが顔に出やすいタイプですが、キャプテンが周りに与える影響は大きい。僕が暗くなったり、厳しい表情をしたら、チームのみんなもそれにつられてしまう。どんな状況でもいい表情、いい声かけをし続けることを心がけた結果、チームとしてもいい結果に終われました」 相馬監督が青木主将の変化について補足する。 「本当に優しい男なので、仲間に強く言わなければいけなかったり、そこでのモヤモヤであったり、そうしたものにおそらく邪魔をされ、前の2試合は自分のパフォーマンスを思うように出せなかったと思います。少しずつ自分自身と向き合いながら、自分がまず先頭に立ってプレーするということに戻ってくれたのかなと。(森ゼミなど)外から入ってくる情報を素直に受け入れて、自分の成長に活かしたのだと思います」 試合に臨むまでに、そもそもの不調の原因も探っていた。岩出雅之前監督や相馬監督と話し合い中で、心の中のわだかまりを解いていたのだ。 「チームとしてどこを目指したらいいのかが明確になりました。それまでは、どうしても去年や一昨年と比べてしまっている自分がいました。今年は今年。最後、大学選手権の決勝の時に僕たちがいい姿でいれればいい。一つずつ積み上げていくことを、僕自身の基準にして過ごしていこうと思いました」 対抗戦は慶大戦、早大戦と続く。立教大の伊藤光希主将に続き、慶大、早大も桐蔭学園時代の仲間がキャプテンを務める(中山大暉、佐藤健次)。 目の前の旧友との対戦を一つずつ制した先に、青木組の日本一が見えてくる。