探究する道のとおく(中編)「藤田さんがこういうバスケットをしたいっていうのを見たときに、すごく面白そうだなって」(Bリーグ・大阪エヴェッサ 牧隼利)
「探究する道のとおく」(前編)より続く なにかを選択すれば他のなにかは選択されない。 バスケットボール選手がどこかのチームに所属することは他のすべてのチームに所属しないことを意味する。 今やB1だけでも24チーム。シーズンオフにいくつかのチームからオファーを受ける選手など珍しくもないだろう。 選択肢が増えるほどに選ばない苦しみは増していく。 我々は自由の刑に処されている。 自分の道は自分の選択によって創り上げられ、その結果の責任の全てを負わねばならない。 「日本人で作って、ズレを作って、日本人が主体となってやっていくバスケットボール。そこに献身的なビッグマンを連れてくる。そういったバスケをして勝ちたいというところ。そこに一番共鳴するというか、そのバスケット観に対するワクワクがありました。」 大阪エヴェッサへの移籍を選択した牧隼利。 決め手となったのは、今シーズンから新たにヘッドコーチとなる藤田弘輝の思考だった。 「仙台のバスケットを見ていたり、今回改めてお誘いをいただいたときに話をして、映像を通して藤田さんがこういうバスケットをしたいっていうのを見たときに、すごく面白そうだなっていうイメージが湧きました。(実際にチーム練習が始まって)藤田さんが仙台から連れてきた(ヴォーディミル)ゲルン選手とも話してみたり練習を見ていて、本当に献身的でこういうバスケットをしたいんだなっていう学びもすごくあって、そういうところにすごくワクワクしています。」 ヘッドコーチの影響力は大きく、そして小さい。 その思想やリーダーシップが選手の能力を引き出し、チームを一変させる例はこれまでにも数多くあるが、一方で、どれだけ優れた理論を持ち合わせていても彼らにはコート内で直接判断を下す権利がない。 極論を言えば、ボールに触れられるのは選手だけなのだから、ヘッドコーチの判断に一つの誤りもなく最善であったとしても試合に勝てるとは限らないという意味において、彼らは無力である。 その問題の解決には選手とヘッドコーチの相互理解が欠かせない。 「藤田さんのバスケットについて今回話してて思うのは、展開をもっと早くして、まず最初に何秒で仕掛けられるかっていうところ。そこから派生していって、どちらかというとセットオフェンスというよりは、流れのオフェンスを大切にするような印象を持っています。自分が点を取りたい、アシストをしたいという気持ちはそんなにあるわけでもなく、どちらかというとそういう流れを作るプレーヤーになれたらなと思っています。 (昨シーズンの大阪を見ていて)個人の印象、合田(怜)さんの印象とか、橋本(拓哉)さんの印象とか、木下(誠)さんの印象が強くあって、この人たちとのプレーはすごく面白そうだなと今回来る上で感じました。自分のポジションがどうとかっていうよりは、そういう個人の強さを、流れの中で活かせるような立場になれたらなというふうに考えています。」 古来よりバスケットボールでは『チーム』か『個人』かの議論が延々と繰り広げられ、その結論はいまだ見えない。 だがわかりやすいスーパースターは歓迎され、複数の日本人選手が得点ランキング上位に名を連ねるようになった現状もあいまって、個への集中が目につきやすい昨今ではある。 その傾向にあえて逆行するような牧の思想は非常に興味深い。