高山一実「この感動を伝えたい!」 絵本のアイデアが生まれた意外なきっかけ
言葉どおりの意味のほかに、もしかしたら別のメッセージもあるのかも? 高山一実さんの絵本には、そんな解釈を楽しむ余地あり。想像の翼を広げて、読んでみよう。 読み返した時に、新たな気づきを感じてもらえたら。 5歳の誕生日を迎えたばかりのがっぴちゃんが、恥ずかしがり屋のちきゅうさんと、未知の世界を体験する冒険に出る――。そんな『がっぴちゃん』の物語を書いたのは、タレントで小説家の高山一実さん。今作は、高山さんにとって念願だった絵本の制作の第1弾。題材のアイデアは、意外なきっかけから生まれたという。 「ちょうど絵本を作りたいと思っていたタイミングに、あるハマグリの名産地に行ったんです。そこで食べたハマグリがあまりにもおいしくて、この感動を絵本にして伝えたい! と思ったことから、本作の制作が始まりました。ただ、その気持ちの中には、“生命をいただいている”という実感も強くあって。普段は忘れてしまいがちですが、食べることって、いろんな生き物をいただくことでもありますよね。そんなメッセージを物語に込めたいと思いました」 実は、ちきゅうさんは、ハマグリの形のキャラクター。一方、がっぴちゃんは、高山さんが子どもの頃に好きだった恐竜をモチーフにして、“好き×好き”を絵本の中に詰め込んでいる。 「がっぴちゃんと、ちきゅうさんの出会いは、がっぴちゃんのお母さんの『ちきゅうさんという とってもおおきな ともだちが あなたを まっているわ』という言葉がきっかけです。でも、この台詞は、子どもには少しわかりにくいと思うんです。そもそも地球は生き物ではありません。お母さんは『外の世界へ行って、いろんなものを見てきなさい』という意味でこの言葉を言っています。でも、ここではあえてそういったストレートな表現は使わず、抽象的にしました。大人になって読み返した時に、そういうことだったんだ…と思ってほしくて」 ほかにも、深く読むと気づきに繋がる箇所がある。 「がっぴちゃんは、恥ずかしがり屋のちきゅうさんを外に出してあげようとします。でも、それはハマグリの形をしたちきゅうさんにとっては、死を意味するんです。ハッピーな話をベースにしながら、見方を変えると違った解釈ができる。私自身、大人になって絵本を読み返した時に、新たな気づきがあると嬉しくなるので、物語を想像しながら楽しめるように、意識して書いたところはあります」 子どもの頃は、絵本好きのお母さまと一緒に、いろんな作品を読んでいたという高山さん。なかでも最近、読み返して印象的だったのが、「こげぱん」シリーズ。 「こげぱんは、私たち世代の大人気のキャラクター。物語の中で今でも覚えているのが、いちごパンの自己紹介。悪気なく『ふかふかです』と言うんですけど、それに対してこげぱんが『バリバリです』と返していて。子どもの頃はそのやり取りを、かわいらしいと思いましたが、いま考えるとシニカルですよね。こげぱんって焦げているパンだから“バリバリ”で、いちごパンの“ふかふか”とはちょっと違う。でも、だからといってこげぱんが仲間外れにされることもなく、みんな同じという世界線で物語が進んでいくのも、改めてとてもいいなと思いました」 さまざまな絵本に触れてきた中での、『がっぴちゃん』の執筆。初めて絵本の制作を経験して、どんな感想を得たのだろう。 「絵本はやはり、ページをめくるたびに絵でワクワクできるところが魅力。そこにどんな文を載せるのかを考えるのが、とても楽しかったです。ちょうど『がっぴちゃん』を書く前に、『トラペジウム』 (高山さんの小説) のアニメ映画のエンディング曲に歌詞をつけるという作業をしていて、私は絵に合わせて短い言葉を載せるのが好きなんだと思っていた頃でもありました。絵本を書く時は、ひらがなを多く使うのも特徴です。例えば『しりもち』とか漢字で書くより、ひらがなのほうがかわいく見える、という発見もありました」 ちきゅうさんが、うんちくを言う場面では、ひらがながさらにやわらかく見えるように、手書きの文字を採用するという工夫も。 「海水がしょっぱいワケなど、ひらがなでも打ち込んだ文字だと難しく感じてしまうかなと。手書きにすることで、軽い気持ちで読んでもらえたらと思っています」 この絵本は、子どもはもちろん、大人にも読んでもらいたいという。 「がっぴちゃんのお母さんも背中を押しているように、実際に自分の目で見て体験すると、新しい可能性が広がったりする。私もハマグリの名産地に行ったことで、この物語が生まれました。とはいえあまり深く考えず、この絵本から冒険気分を味わって、少しでもリフレッシュしてもらえたら嬉しいなと思います」 『がっぴちゃん』 主人公のがっぴちゃんは、ちきゅうさんと冒険の旅に出かける。その道中で、ちきゅうさんに、知らなかったことをいろいろ教えてもらうがっぴちゃん。ふたりは友情を深めるが、やがて別れの時が訪れ…。絵/みるく KADOKAWA 1540円 kazumi takayama,milk,2024 たかやま・かずみ 1994年2月8日生まれ、千葉県出身。タレント、小説家。乃木坂46のメンバーとして活動後、2021年に卒業。’18年、『トラペジウム』で小説家デビュー。今年5月、アニメ映画『トラペジウム』が公開された。乃木坂46LLC 『anan』2024年10月2日号より。写真・中島慶子 取材、文・保手濱奈美 (by anan編集部) あわせて読みたいanannewsEntame 乃木坂46・高山一実「いつか卒業ライブを…」 道重さゆみに憧れ2020.11.9anannewsEntame 乃木坂46・高山一実「目立つために不本意だけどやる」 苦難の道のり語る2020.11.9anannewsEntame JO1・木全翔也「『トラペジウム』は僕にとって大事な一歩となる作品に」2024.5.21anannewsEntame 乃木坂46・高山一実 処女作に込めた“願い”とは? 2020.8.30anannewsEntame 乃木坂46・高山一実が「この夏読みたいサスペンス&ミステリー」とは? 2017.7.1