緊迫する朝鮮半島情勢などについて意見交わす 朝鮮大学校で公開討論会
東京・小平市にある朝鮮大学校で2日、公開討論会が行われ、緊迫する朝鮮半島情勢や、大国間の対立が激化するいわゆる「新冷戦」とも呼ばれる状況への意見が交わされました。 在日朝鮮人や朝鮮半島にルーツを持つ学生が通う、東京・小平市の朝鮮大学校で2日、朝鮮半島情勢についての公開討論会が行われました。 討論会は朝鮮大学校が設置する研究機関「朝鮮問題研究センター」が主催したもので、国際政治や安全保障、中国・北朝鮮の専門家らが登壇しました。 朝鮮現代史が専門の李柄輝(リ・ビョンフィ)朝鮮大学校教授は、北朝鮮がロシアとの軍事的な結びつきを強めていることや、韓国を「敵国」と位置づけて緊張が高まっている理由について、北朝鮮の政策がすべて、自国をとりまく「力の均衡を維持する方向に向けられている」ためと分析しました。安全保障協力を強化する日米韓の軍事力との均衡を保つのが狙いだということです。 北朝鮮の金正恩総書記は今年1月、韓国との統一という長年堅持してきた目標の放棄を宣言したほか、先月の最高人民会議では、軍事境界線を「国境」とする憲法改正が行われたとの見方もあり、韓国との緊張が高まっています。 李教授は、2019年の米朝首脳会談の決裂以来、北朝鮮が外交よりも「力で平和を担保する」方向に舵を切り、その流れが対韓国政策にも投影されていると指摘した上で、「確実にアメリカを抑止するためには、韓国全域を戦略兵器(=核兵器)の射程に収めなければならないという考え」が政策転換の背景にあったのではと分析しました。 韓国をいつでも攻撃できる対象とすることで、後ろ盾であるアメリカへの抑止力にしたい考えです。 また、韓国側が北朝鮮を「吸収統一」する狙いを持ち続けているとの認識を示し、平和的な共存には「吸収統一論」の撤回が必要だと指摘しました。その上で、朝鮮半島全域を領土と規定する韓国憲法が改正され、南半分だけの国家と韓国が自認すれば、両国の対立の根源である「互いに共存し得ない関係」が解消されうると、韓国での憲法論議を提案しました。 国際政治学が専門の廉文成(リョム・ムンソン)朝鮮大学校准教授はアメリカや日本がこれまで北朝鮮との交渉で「外交というより、力で押し切る態度が目立っていた」と苦言を呈した上で、北朝鮮を「合理的な判断ができる国家として認めた上で、外交交渉に臨む必要がある」と指摘しました。関係改善の兆しが見えない日朝関係については、2002年の日朝平壌宣言に盛り込まれた「過去の清算」や、朝鮮学校が高校無償化や幼保無償化から除外されているといった問題について日本側が取り組むことが関係改善につながるのではとも指摘しています。 中国政治が専門の朱建栄・東洋学園大学客員教授はアジア太平洋地域でクアッド(日米豪印)やオーカス(米英豪)といった「中国包囲網」ともとれる枠組みをアメリカが主導していることについて「『新冷戦』の構造をつくろうとしているが、(中国は)新冷戦の現実化を避けようとしている」と指摘しました。その理由として、かつての冷戦期には中国経済が成長できなかったことなどをあげ、中国は冷戦構造になることを避けながら自国の成長を図り、長期的に「アメリカ覇権主義の全世界における経済的・政治的基盤を切り崩していく」ことを狙っていると分析しています。 一方で、台湾や朝鮮半島で実際に有事が起きた時に備え、アメリカが中国に少なくとも「勝てないようにする」ため、中国は準備を進めているだろうとしています。