小日向文世「70歳だなんて笑ってしまう」今もストレートプレイで緊張する理由とは
自分だちでも今回の作品が貴重だと思う理由
──年齢を経ることで、作品に対して印象が変わった部分はありますか? 自分自身が演じるロックハートという役よりも、平田さんが演じるシャーキーと克実君が演じるリチャード、この兄弟の最後の会話とかにぐっとくるものはありますね。ただ、稽古してても70歳の親父同士で顔を近づけあってると笑いそうになっちゃうんだけど(笑)。でもそれがいいんですよね。よくやってるな俺たち、ってジーンとしちゃう。 ──それこそ共演者の皆さん、かなり長いお付き合いなわけですよね。 だって、大谷なんて自由劇場の同期なんですよ? ちょうど30年前にシアターコクーンで僕は『ハムレット』をやらせてもらったんだけど、そのときのローゼンクランツ役が浅野。平田さんは僕が芝居を始めた頃はもう活躍していたし、みんなに知られる存在だった。高橋君なんかも、彼がまだ、離風霊船といういう劇団にいた頃からの付き合いだし。若いときはやっぱり、みんなそれぞれ尖ってましたよ。でも今はもう、全員がいい感じで丸くなってますね。 ──ちなみに、一番丸くなったと思うのはどなたですか? ……大谷かなあ(笑)。自分の老いにすごく自覚的な気がする。ただ、大谷の場合は自分で劇団を立ち上げたりとか若い頃のエネルギッシュさを知ってる分、ギャップでそう思うのかもしれないですね。でも本当に、多分もうこのメンバーが揃うことは二度とないと思うんです。だってあと5年後だったらほとんどが75歳でしょう? 全員が元気で居られるかどうかわからない。だからこそ、今回の作品が貴重だなと自分たちでも思うんですよね……こんな70近いおっさんばかりが集まるような舞台、若い人が面白いと思ってくれるかな? という不安はあるけど(笑)。 ──そこは大丈夫だと思います! 稽古の合間は皆さんどんな会話をされてたりするんですか。 どうしても芝居以外の話で盛り上がるんですよね。ここが痛い、どこが調子悪いとか、あとよく盛り上がるのは酒を飲んだときに夜中におしっこで目が覚める回数(笑)。初演のときはそんなことはなかったんだけどね……いや、再演のときはしてたな(笑)。 ──昨年、今年と舞台出演も続きましたが、意識的に舞台の本数を増やしているという部分はあるんでしょうか? それは、本当にたまたまなんですよ。2021年に松尾スズキ君演出の『パ・ラパパンパン』に出演して、そこからこの作品で6作目なんですけど、実はそのときは既に合計6本出ることが決まってたんですよね。でも、どれも面白そうだし、断れない作品ばかりで(笑)。そういうのがたまたま続いてしまったという。その前までは1年に1本くらいのペースにしていたんですが、映像のお仕事もあるし、物理的に無理かな……というのもあったので。 ──舞台出演が多くなる日々を改めて経験して、改めて「演劇・舞台」について思うことはありますか? やっぱり「舞台」は大変だな、と。とにかく本番中はリラックスできないし緊張しますね。もちろん映像のお仕事も大変だけど、生身のお客さんの前に自分を晒すことはないわけで。そういう意味で、舞台の緊張感は別ものですね。そう考えたら劇団時代には年間4~5本とかシアターコクーンに立ってたわけだから、我ながらよくやってたなあと。あれも贅沢な時間だったけど、劇団が解散してからいろんな作品に声がかかり、そうするとそれぞれ違ったアプローチの仕方をしていかなきゃいけない。劇団って目指す方向、全体として向いてる方向が一つだから、あんなことができたのかもしれないですね。